第6話 アルテナの光

 その場所は、


 上も下も何もない、光の満ちた空間だった。


「な…何コレ、準兄ちゃん⁉︎」


「判らない。けど…」


 さっきの優しそうな女性の声、前にも聞いたことのある声だ。


『私の名前はアルテナ』


 そのとき女性の姿をかたどった、ボンヤリとした白い影が浮かび上がる。


『勝ち目のないゲームを強要されている日本人の現状をうれい、何とか救いたいと願う者です』


「あー…えっと、ちょっと待ってくれ」


 コイツ、今、何て言った?


「これは、ゲームの演出じゃないのか?」


『私の名前はアルテナ。この勝ち目のないゲームから日本人を救いたいと願う者です』


「…さっきも言ってたな。勝ち目がないってのは、どう言うことだ?」


『魔王の力は強大です。勝てる見込みは、殆どありません』


「そりゃ、簡単でないのは分かるけど…、その為に勇者が設定されているんじゃないのか?」


『では、その【勇者】に力を与えたのは、どなたとお思いですか?』


「それは……」


 その質問に、俺は言葉を失ってしまう。


『魔王はこのゲームを本気で愉しんでいます。攻撃が無効などという理不尽さはありませんが、あなた方プレイヤーの上限レベルを、遥かに超える能力を有しています。殆ど勝ち目はありません』


「だったらアルテナさんが、代わりに魔王を倒してくれるの?」


 今まで俺の後ろに隠れていたアイリが、ここでやっと声を上げた。


『魔王の異空間は強固です。他者の干渉を受け付けません。私もこうしてわずかなほころびから、あなた方に接触しているのがやっとなのです』


「そんな…」


「それじゃアンタは、俺たちに一体、何をしてくれるんだ?」


『大賢者のスキルに私の加護を与えます。これによりステータスとは無関係に、光の属性ダメージを魔王に与えることが出来ます。魔法の規模によってダメージも増減しますので、注意してください』


「強さに関係なく固定ダメージか。確かに強力だ。だけど何で俺なんだ? アイリに与えれば良いじゃないか」


『魔王は大賢者の能力も、当然熟知しています。あなたが自分の目の前に現れたとしても、毛ほども警戒しないでしょう。だからこその切り札です』


「…なるほど、言いたいことは分かった。勿論このスキルは、他の魔物にも通用するんだよな?」


『それなのですが、私の干渉を魔王に気取られる訳にはいきません。直接に対決するまでは、隠しておいてください』


「何でだ?」


『他者の干渉に気付けば、ゲームを邪魔されたと魔王が怒り、逆侵攻によって各個撃破で蹂躙じゅうりんされてしまうかもしれません』


 な…なるほど、無いとは言い切れない。


『それ故、大賢者にはダミースキル【輪唱】を与えます。このスキルは、一度の詠唱で二回分の魔法が発動します』


「ダブルマジックか、確かに強力だけど…」


『ええ、そうです。それでも大賢者の能力では、北海道に入る頃には厳しくなってくるでしょう。しかしこれ以上の干渉は気取られる恐れもあり、あなた方の知恵と勇気に期待するしかありません』


「ハハ、完全に丸投げかよ。全く…」


 この状況に、俺は思わず笑ってしまった。


「準兄ちゃん?」


「ゴールはまだ先…って事みたいだな」


「うん、うん! ずっと一緒だよ、準兄ちゃん」


『…どうやら魔王が、全プレイヤーに向けて干渉を開始するようです。もう時間がありません。その時が来たなら、私の名前を唱えてください。ダミースキルが消滅し、本来のスキルが発動します』


 あなた方、日本人に、幸が多からんことを…


 アルテナの声が遠のいていくと同時に、周りの光が薄れていく。


 そうしていつの間にか、俺とアイリは、俺の実家の玄関前に立っていた。


『大変な事になったぞ、お前たち』


 その直後に、【魔王】の声が頭の中に響き渡る。


 あまりに唐突な物言いに、いきなりバレたのかと背筋が凍りついた。


『西に配置していた【剣の勇者】が、二十四時間ルールを逆手にとって、ここ北海道まで一気に攻め込んできた。他にもバラバラといるな。どうやら共に行動していた仲間たちか』


 そこで間を置いた魔王が、グハハと小馬鹿にしたように笑い始めた。


『残念だったな、転送先はランダムだ。いくら最強の力を与えた【剣の勇者】でも、獰猛な魔物の大地で、ひとり不眠不休で戦い続けることは不可能だ』


 マジか…。せっかく魔王に対抗する手段を手に入れたのに、ここで勇者の一角を失うのはキツい。


『しかしながら、我もこんなところで、愉しみのひとつが朽ちていくのを望んでおらん。そこでだ、魔物によって破壊分断されていた高速道路を、修繕開通してやろう。料金所と呼ばれる関所にはエリアボスを配置させてもらうが、一度倒せば後は素通り出来る。急ぐんだな』


「全く、次から次へと退屈しないな。何てゲームの世界だよ」


「どうしますか、準也さん?」


 魔王の通信が終わって、気がつくと、他の皆んなも、俺んちの前に集まってきていた。


「モチロン行くよね、準兄ちゃん!」


「そうだな…」


 アイリを始め、華月や皆んなの期待を込めた眼差しが、【大賢者】の俺へと注がれる。


 さっきまでは、ここがゴールだと考えていたと言うのに、これでは腹を決めるしかない。


「二人目の勇者を、迎えに行くぞ!」


 俺が右手を振り上げると、「おおー!」と皆んなも続いて振り上げる。


 こーいう事を言うのもアレだけど、


 えて言わせて貰いたい。


 そう、


 俺たちの冒険はこれからだ!






 〜おしまい〜

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【悲報】大賢者になって喜んでたら、序盤強キャラあるあるでした〜日本ってゲームの世界?スピンオフ〜 さこゼロ @sakozero

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