第2話 勇者との邂逅

 結局、二十四時間以内にエリアボスの討伐に成功したのは、


 福岡、広島、兵庫、静岡、千葉、福島の六県だけだった。


 俺の両親は秋田にいた。


 産まれは千葉だが、親の仕事の都合で秋田へ引っ越し、その後、大学進学を機に、福島で一人暮らしをしていた。


 異空間に隔離されて以降はスマホも使えず、連絡も取れていない。


 しかし、ハードモードの東北だ。


 おそらく殺されているだろう…


 尚更、魔王を討伐する理由が出来た。


 魔王の討伐に成功すると、異空間内の全ての事象が無かったことになるらしい。


 逆に、三人の勇者が全員死亡すると、このまま日本は、魔物の楽園と化してしまう。


 これだけの惨状だ。


 プレイヤーは皆それぞれに、北海道を目指す理由があるだろう。


 魔王はそれを愉しんでいる。


 嫌なシステムだ。


 魔物の放出が始まると同時に、エリアボスは姿をくらまし、代わりに結界装置が配置された。


 点在する装置をプレイヤーが起動させると、小規模な安全領域セーフゾーンが展開されるらしい。


 プレイヤーの次なる使命は、何処にあるのか判らない結界装置を探し出し、少しずつ安全領域セーフゾーンを増やしていく。


 どうやら魔王のこのゲームは、第二ステージへと移行したようだ。


 しかしながら魔物側にも、結界の破壊が可能な特殊個体が存在する。


 結界を破壊されても、装置を再起動させれば良いだけなのだが、自ずと、防衛組と捜索組に分かれることになる。


 ただでさえ少ない戦力が更に割かれ、一進一退の陣取りゲームが続いていた。


 〜〜〜


 有頂天に勘違いしていた当時の俺は、結界装置など気にも留めずに、一気に魔王を倒すつもりで進んでいた。


 残念ながら、そこで厳しい現実に直面し、福島の自宅へと戻ってきていた。


 とは言え、二十四時間ルールもある。


 俺はステータスの高さを隠し、茨城県側の結界防衛戦に参加者していた。


 そこで、ふと思う。


 北海道を目指すにあたって、南に向かうことに意味があるのだろうかと…


 近くの参加者に質問すると、


 最大の理由は、千葉にいる勇者と合流するということらしい。


 そう言えば、千葉と兵庫と福岡県に勇者がいることは、事前の情報として与えられていた。


「そうか、勇者か…」


 今更ながら納得する。


 俺は自分で魔王を倒すことばかり考えていた。


 しかし、それは間違いだ。


 このゲームには、勇者が設定されている。


 今はまだ弱い勇者を、護り育てること。


 それこそが、俺に課せられた役目なんだ。


「俺が道を切り拓きます。皆さんは、結界の防衛をお願いします」


 俺にとっては、東北以外はぬるゲーだ。


 最初は飛び交っていた反感も、歓声に変わるのに時間は掛からなかった。


 そうして一気に茨城県全土を解放し、千葉県へと到達した。


 出迎えてくれたのは、千葉県の勇者。


 福島戦線のリーダー格が挨拶し、続いて俺の元へと連れてきた。


 現れたのは、かなり小柄な女の子。


 何処となく見覚えのあるその顔は、


「え…、準兄ちゃん⁉︎」


「あ、アイリ⁉︎ お前、アイリか⁉︎」


 千葉県時代に隣りに住んでた、幼なじみの少女だった。

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