第4話 大賢者の苦悩

 結局あの後、俺も例の作戦会議に参加した。


 茨城県解放の立役者となった、俺の意見を求められたのだ。


 そこで俺は、宮城県の半ばまで攻め入ったこと、そして、魔物の強さにそれ以上は進めなかったことを正直に話した。


 俺の強さに心酔していた福島戦線の仲間たちは、その事実に騒然となっていた。


「正直、東北のハードさは想定以上だ。生命の危険も格段に跳ね上がる。行くなら、有志を募った方がいい。その代わり…」


 そして俺は、アイリとの再会によって思い付いた考えを口にする。


「アイリが来てくれるなら、序盤は俺ひとりで、皆んなのレベルを引っ張り上げてやる」


 このゲームのシステムとして、魔物を討伐したプレイヤーの周囲百メートルにいるプレイヤーは、経験値を共有できると言うものがある。


 威力と範囲が大き過ぎて、前回の宮城県ソロ攻略時には使えなかった魔法も、アイリが魔物を引き付けてくれるなら使えるはずだ。


 皆んなの成長次第では、宮城県の早期解放も無理ではないかもしれない。


「私は勇者なんだよ、準兄ちゃん。絶対についていくから!」


「アイリが行くなら、私も行くよ」


 そのとき女子高生の二人が、迷いもせずに参加の名乗りをあげた。


 その宣言を皮切りに、その場にいた全員が、我先にと名乗りをあげる。


 だが実際問題、関東周辺は、まだまだ魔物の勢力下だ。小さな安全領域セーフゾーンに閉じこもって、助けを待つ人たちがいるかもしれない。


 そこで、この場の皆んなで相談して、スキルの強力そうなメンバーを二十人ほど選抜した。移動に便利だからと、大型バスの免許を持ってる男性にも参加してもらった。


 そうして今、俺たちは、福島県と宮城県の県境にいる。


 ここから先はハードモードだ。


 ある程度までなら行けるだろうが、何処まで行けるかは判らない。


 鍵となるのは、俺の最大魔法。


 この魔法の結果次第では、かなり厳しい戦いになるかもしれない。


「ごめんな、アイリ。囮みたいな真似をさせて。もしかしたら、怖い思いをするかもしれない」


「大丈夫だよ、準兄ちゃん。準兄ちゃんの力になれるなら、今の私は怖いもの無しだよ」


「ハハ、成長したのは、胸だけじゃ無さそうだな」


「も…もおおおおお!」


 そんなセクハラ発言にプクッと頬を膨らませるアイリの頭を、


「悪い、悪い。頼りにしてる」


 俺はポンポンと、優しく撫でた。


「ふふ、こう言うの久しぶり」


 アイリは頬を染めて照れ臭そうに微笑むと、


「じゃ、行ってきます」


 先陣切って、魔物の巣窟へと駆け出して行った。


 〜〜〜


 結果として、俺の【炎の竜巻フレアトルネード】は、文字通りに火を噴いた。


 勇者以外の全てのスキルには、使用後に凍結時間が設定されている。


 強力なスキルほど長い時間が設定されており、炎の竜巻に至っては、三十分の凍結時間が設定されていた。


 場合によっては厳しくなると予想していたが、宮城県を解放するまでは、何とか力で押し切れた。


 この頃には仲間のメンバーのレベルも上がり、かなりの戦術が取れるようになった。


 護りの勇者であるアイリでさえ、レベルが二十を超えた頃にスキル【バリスタ】を覚え、強力な存在へと成長していた。


 いわゆるシールドバッシュ的なスキルなのだが、その威力が半端ない。さすが勇者と言うべきか。


 そうして俺は、


 自分の役目の終わりが近付いている事に、そろそろ気づき始めていた。

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