執事の戦闘服
執事が部屋に戻ると、古参のメイド頭が彼を待っていた。
彼女の腕には上品で艶のある布地で作られた新しい服がかけられていた。
「お嬢様からご指示があった服を用意しましたから、お出かけにはこれを着て行って下さいね」
自分はさっきお嬢様からご指示を聞いたばかりだが、この用意の良さからすると、何日も前から準備していたのかもしれないなと思った。
「大丈夫だと思うけど、一応念のために袖を通してみてちょうだい」
彼女にうながされ、手渡されたその服に着替えてみると、腕や脚の長さもちょうどよく、すっきりみえるのに窮屈さを感じることはなく動きやすい仕立てになっていて、既製品とは全く着心地が違う。これぞオーダーメイドの素晴らしさだとしみじみ感じられるのだった。
このお屋敷では代々服飾に強いこだわりを持つ当主が多く、服を仕立てるための特別のメイドを雇っているほどだった。この服も今まで支給されたものと同じ様に過去の私の採寸のデータを使って作られたものだろうが、メイド頭によると、この布地は特に特別上等で、服にこだわりがある人から見ても賞賛の声をかけたくなるような布地だそうだ。
確かにそれほどのものだろうということは私にも理解できる程の品の様だ。
私は元々服にさほど興味がなく知識もたいしたものではないが、このお屋敷で働くうちにどんな品質なのか、センスが良いかといったことが分かるようになっていた。お屋敷でご家族のお世話をして良い仕立ての服を見慣れるようになったら、知らないうちにそんな感覚が身に付いていたようだ。
これほど良い仕立ての服を着るようにとご指示があったということは、
やはり相手もそれなりの人物ということだろうか・・・。
これは戦闘服のようなものかもしれないな、と彼は思った。
出かける前に服にもう一度ブラシを丁寧にかけ、襟元を整えて、靴を磨き、お嬢様に渡された名刺、そして手帳をバッグにしまい込み、隙のないように身なりを整えた。
鏡に映る自分を見ながら、私はこの役目を無事に果たせる、と言い聞かせてみたのでした。
屋敷の窓からこんにちは 明璃 @akari48
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