執事の任務

執事の返事を聞いた綾音は、ほんの少しだけ口角を上げて満足そうに微笑んだ。

そして、とても役に立ったわ、と言って執事に手帳を返すと、

鋭い瞳で執事を見つめながら、落ち着いた声でその計画について話し始めた。


「では、これからある所に出かけてもらいます。

気を付けてほしいのは、必ずきちんとした服を選んでいくこと」


「普段から服装には気を付けているつもりですが。つまり、いつも以上に、ということですか?」


「ええ、そうよ。相手が対等な家柄だと見るように、はっきり言えば絶対に見下されない様にする為にね。だから質の良い仕立ての物を着て行って欲しいの」


「はい、分かりました。身なりを気を付けるということは、これから向かうお屋敷は身分の高い方がお住まいの場所ということでしょうか」


「特別な家柄というわけではないけれど、一応有名ではあるし、まあ、有力者といったところかしら?さほどの人物でもないはずだけれど。

それでも、相手が自信過剰でおかしな自負でも持っているとしたら、きっと相手を見下したりしてくるかもしれない。だからきちんとした服装と家柄が必要だというわけよ」


「なるほど。そういうことだったのですね」


「それから、絶対に私からの使いだということは伏せてちょうだい。

事件の関係者だと分かっていたらきっと警戒されてしまうから、私のことは一言も口に出さないように頼むわよ。


そうね・・・おばあ様の、直接血縁関係のない方のお名前をお借りして・・・あの方がいいわ。その方の所から来たことにしましょう。

この街にお住まいだから怪しまれることはないでしょう。

このことは、後でおばあ様に伝えておけば問題ないでしょうから」


そして綾音はこう続けた。


「これから行く屋敷には、きっとそこの主人が収集した調度品が置いてあるはずよ。邸内に入ったら、それを全て覚えてしまう位のつもり観察して、さっきの手帳に絵で特徴を書いておいて。


それから、ここが本当に重要なところだからしっかり頼むわ。

調度品の中に、もしかしたら盗まれたものも置かれているかもしれないから、注意して。


置いてある品をよく見てきて欲しいのだけど、あまりにもおかしな様子で観察していると不審がられるでしょうから、不自然と思われない程度に調度品を褒めたりしながらやってちょうだい」


「綾音様のお名前は出さない。

そして怪しまれないように邸内の調度品を観察し、記憶して絵を描いてくる、

これが私の仕事ですね」


「そうよ。分かってくれたようね。ではさっそく着替えて出かけてもらうわ」


「はい、ではすぐに準備してまいります。失礼いたします」

執事は静かにお辞儀をして部屋をあとにしたのだった。



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