執事の手帳

執事は屋敷に帰ってくると、街で聞いた証言の手帳の内容を見やすい様に手早くまとめ、綾音の部屋へと向かいました。


ドアをノックすると、すぐに「入ってちょうだい」と返事があり、部屋に入ると

テーブルの上にのあちこちに、最近の新聞や地域の冊子がたくさん広げられていました。


どうやら夢中で調べられていたようだな・・・。普段ならこんな乱雑な状態には耐えられない性格の方なのだが。


冊子を見ていた手を止め、顔を上げた彼女は「街での調査は済んだかしら?」と

執事に聞きました。

「はい、お嬢様。こちらに纏めたものがございます」

執事は持ってきた緑の手帳を彼女の手元に開いて置くと、彼女はすぐに手帳を顔に近づけて中身を見始めました。


ピクリとも微動だにしないその様子を見ながら、いつもの綾音様だな・・・と彼は心の中で思いました。


数分で中身を読み終えた後、彼女は執事の目をじっと見つめて言いました。

「手帳を見せてもらったけれど、この絵がなかなかいいわね。

今回の謎を解くカギになってくれるかもしれない」


「ティーポットは普段使うものですから、わざわざ写真を撮っているような家は少なかったので、話を聞いて絵で描いてみたらどんな形で絵柄なのか整理しやすいかと思いまして。お役に立ったようで良かったです」


「そう。絵は良い思い付きだったわ。

それから証言からすると、どの家でも作業員や訪問者の身元がはっきりしていないようね。

そして一人ではなく二人組だった・・・。

一軒は不明だけれど、他の事例が全て二人いたことからすると車にもう一人いた可能はあるわね。

うちにもガスの点検といって人が来たようだけれど、二人だったのかしら」


「はい、実は先ほど当日立ち会った者たちにその点を確認してみましたら、二人連れだったそうです」


「やはり、そうだったのね。これで今回の謎が分かってきたようだわ」


「お嬢様、犯人の目的は一体何なのですか?

私にはポットだけを盗んでいく様な人間の思考は理解できません」


「普通はね。ポットだけなんて考えたりしないわ。

犯人は大分変わっている人間だということよ。

常識で考えるから謎の事件だと考えられてしまったのね」


「一体犯人はどんな人間なんですか?何のためにポットだけ集めているんですか」

執事は我慢できなくなって、事件の謎をすぐに知りたくなり、思わず普段よりも強い口調で綾音に尋ねました。


「謎を明かすのは事件が全て解決してからにしましょう。

これからあなたにやってほしいことがあります」

綾音は鋭く射貫くような瞳を執事に向けてこう言いました。


「やってくれるわね?」


彼は彼女のこの強い意志が込められた視線で何かを言われると、金縛りにあったかのように目をそらせなくなり、いつでもこのように答えるしかなくなるのでした。


「・・・・・はい、わかりました、綾音様」

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