街の人々の証言
執事はいつもの様に用事を済ませるべく街へと出かけました。
仕事の内容は銀行での手続き、買い物や注文しておいた商品の受け取り、店での細々とした支払いなど、意外としなければならないことは多いのでした。
街中に入ると最初はいつもと変わらない様子に見えましたが、あちこちで彼に対して何かもの言いたげな視線を送ってくる人達がいることに気が付きました。
前回訪れた時にティーポットの件をあちこちで聞いていたから、噂が広まっていて頼りにされているのかもしれない。
人によっては、お互いに視線がしっかりと合う者もいて、そんな時には彼は相手に分かるようにゆっくりと頷き、後で話を聞くつもりがあることを無言で伝えました。
彼は用事を短い時間で手際よく済ませた後、さっそく街での事件の詳細について調べることにしました。
以前に街で事件の相談を受けた時には、それぞれの話を相手が話すままに聞いていましたが、今回は全て聞き逃すことなく情報収集をしようと、普段から愛用している緑の皮の手帳にお嬢様から指示を受けた内容を書き込み、それを基に盗難被害にあった人達からの情報を聞き取っていくことにしました。
「それで、事件のあった前後に何か変わったことはありませんでしたか?」
「そういえば、ガスの点検がこのあたり一帯であるとかで・・・うちにも来たといっていました」
「点検に来た人間の身元や会社、書類などは残っていますか?」
「いえ、特に渡されたものはなかったですよ。
名札なんかもなかったな。
俺は仕事中だったから、任せて他の部屋にいて、20分もしないで点検が済んだと声だけ聞こえて、見に行ったけどもういなくてすぐ帰ったらしかったよ」
「何か不審なところや見慣れないことはありませんでしたか?」
「言葉遣いが上品な感じがしたな。ああいう仕事だと別に丁寧な話し方は必要なさそうだけど、なんだか育ちがいいというかそんな感じがしたよ。
もう一人は車のほうで待機してたからよく分からないけど」
「そうでしたか・・・ありがとうございました」
また他の被害者は、水道の点検があったという話をする者もあり、
水漏れが起きる可能性があるので危険だから出ているように言われたと証言した。
「なるほど・・・では作業員が作業している間、あなたはキッチンにいなかったわけですか」
「はい、そうです。キッチンの下の配管が危ないかもしれないと言われてね」
「それで修理をしたとかの内容の報告がありましたか?」
「問題ないとのことで時間も30分もかからなかったはずです」
「名前や書類はありましたか?」
「いえ、ありませんでした」
「何か不審な点や不思議に感じたことはありませんでしたか?」
「そうね~特には・・・ああ、そういえば作業服を着てたけど、新しい感じで
多分二人とも新人さんなのかなって思ったわね、丁寧な言葉遣いでしたよ」
「二人で来ていたんですか。」
「ええ、二人でしたよ。作業していたのは一人だったけれどね」
また別の家では
「ボランティアで寄付できる衣類や日用品を集めているとかで、
うちにも何か寄付できるものがないかとやってきた人がいました。
ちょうど庭に捨てる予定の敷物があったから、それがいいんじゃないかと思って
その人を家に上げて、私は庭に取りに行きましたよ」
「それで敷物は渡したんですか?」
「それがせっかく持ってきたっていうのに、その大きさの物は持っていけないからと
断ってきたのよ、酷いわよね」
「それでそのまま帰ったわけですか」
「一応詫びは言ってたけど、失礼な話よ。
最初に必要ないものがあれば言っておいてくれりゃいいのにね」
「それでその人物は、どこの団体から来たとか名前だとかは名乗りましたか?」
「確か団体名は言った気がするけど、この辺りの団体じゃないと思うわよ。
聞いたことがなかった名前だから・・・どうだったかしら、もう忘れちゃったわ。
なんだか髪型も服装も綺麗にしてて、きっとボランティアもお金持ちの趣味でやってるんじゃないの。言葉も上品でね」
「訪ねてきたのは二人ではありませんでしたか?」
「どうかしら?もう用がないと思って、その男の人が帰っていくのをろくに見なかったから。でも車で来てたみたいだから、だれか他の人が乗ってたかもね。私には分からないわ」
そして盗まれたティーポットについて個々に詳しく調べていくと、
絵柄はマーガレット、ラベンダー、バラなど様々な絵柄の物が盗まれていることが分かった。製造年にばらつきがあり、近年の物はないようだった。
写真があるものについては写真をもらって、無いものについては彼が所有者から特徴を聞き出して手帳に特徴を絵で描いておくことにした。
製造年のことが気にかかったので、アンティークショップに最後に寄って店主にも話を聞くことにした。
最近ティーポットを求めに来た客がいなかったかを聞いてみると、
「はい、半月ほど前に昔の物を探しているお客がいましたよ。
こちらでは品質がよく保存状態の良い物だけを扱っていて、良さそうなものがあればその都度そちらのお屋敷のお嬢様にご報告してお譲りしていますが、一か月ほど前にお譲りした後は今まで在庫が一つもありませんでしたので」
「なるほど。お嬢様もこの地域で作られたティーセットや食器類をお集めになっていますからね。
それで、そのお客の探しているのはティーセットでしたか?それともティーポットだけでしたか」
「ティーポットだけを探していると言ってましたね。
普通使うならセットで求める方が多いでしょう?
なんだか良い身なりで言葉遣いも上品な、どこかの家の執事のような雰囲気の男性でしたから、ポットだけなんておかしいなと思いましたけど、少し古い時代の物ということでしたのでカップはあるけれど、ポットは割ってしまったとか、大事なもので探しているとか、何かしら理由があるのかなあと・・・それで、なんとなく記憶に残っていましたよ」
どうも犯人が集めている物には法則性があるようだ・・・。
まとめた情報をお嬢様にお伝えして解決に導いてもらって、街の人たちの不安を早く消してあげたいものだ。
さて、お屋敷に帰るとするか。
きっとお嬢様は待ちかねていらっしゃるだろうから、急がねば。
執事は街での調査を終え、車に乗り込み急いで屋敷へと向かったのだった。
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