星屑のゼロ距離魔闘士 〜魔力ゼロだが、魔法を分子や原子、果ては素粒子まで量子論レベルで考察しながら生前の古武術と組み合わせて鍛錬していたら、いつの間にか最強レベルになっていた〜

蒼穹~あおぞら~

プロローグ


「……大変申し上げ難いのですが、リュージくんの魔力量は……《ゼロ》です。」



 俺は今、魔力測定器を前に立ち尽くしている。

測定結果が魔力ゼロと告げられたからだ。



「「「ぎゃーははは!!」」」



 その瞬間、俺の判定結果に注目していたギルド中のハンターたちが一斉に笑い声をあげた。それは、酷く嘲笑の孕んだそれだった。



「ゼロ!魔力ゼロかよ!ゼロ!どんなに低くても十以上はある。それがゼロだってよ!」


「ガハハハ!!ウケる!あれだけ光ってゼロ!みんな!こんな所にパラサイトがいたぜ!」


「寄生者(パラサイト)がハンターだってよ!!ジョークがすぎるぜ!腹筋が千切れる! あーはははは!」


「えーやだ〜。この先迷惑かけてほしくないわ〜。っていうか、パラサイトはハンター登録禁止じゃ無いの〜?」


「あいつ、ゼロって言われてもよく理解できてねぇ顔してるぜ!ウケる!魔力欠乏者は役立たずってのは決まってんのによぉ~!」




 前世の子供の頃に味わった他人の嘲笑の眼差しの記憶がフラッシュバックし、背中に嫌な汗がブワリと溢れ出る。


 ……何で俺はこんな状況に身を置いているのだろうか?などと現実逃避気味にここに至るまでの出来事を振り返るのだった。





――――――




 俺はさかき 柳二りゅうじ



 当時高校生だった俺は一度死んだ。


 俺の家の古武術道場の兄弟子であり、榊家のすべてを奪った因縁の相手。宵門よいかど 雄我ゆうがに突然襲われて。




 理由は良く分からない。ただ、雄我は俺のこの特別な眼が邪魔だと言っていた。


 ばあちゃんはこの眼を《彗心眼すいしんがん》と呼んでいた。


 何でも、俺の家の道場の流派、“無幻水心流”の開祖も同じ特別な眼を持っていたそうだ。




 この《彗心眼》で生き物を見ると、その体が透けて脳や心臓、そしてそこから伸びる神経が光り輝いて視える。人間のそれは特に強く輝き、しかもとても複雑だ。


 俺はこの光を魂の光と呼んでいた。


 霊子物理学の権威であったばあちゃんから言わせると、魂の様に見えるものは人に宿った霊子結晶アニマなんだとか。





 一見すると特に害がなさそうなこの眼だけど、しかし俺が生まれつき極度の虚弱体質だったのはこの眼が原因だと思っている。


 この眼は膨大な情報量を脳に強制的に送り込んでくるのだ。


 見ようと思っていなくてもこの眼に映る膨大な霊子結晶アニマの情報が脳に直接送り込まれるものだから、それを制御できなかった小さかった頃の俺にとって極度の心身的負担となっていたのは疑う余地がない。




 ばあちゃんみたいにこの眼を特別だと言ってくれる人もいたけど、他の多くの人は俺の眼を気味悪がった。相手に言わせれば何もかもを見透かされているようで気味が悪いんだと。


 そりゃそうだ。《彗心眼》はぼんやりとだけどその人が次にどういう行動をするつもりなのか、さらにはどんな感情なのかさえ透けて視えてしまう。たとえ目を瞑っていても。




 みんなはそんな俺を気味悪がっていたから、いつも一人だった。そして、いつもひどい頭痛と全身の気怠さに苛まれていた。


 だから、正直俺はこの眼に余り良い感情を持っていない。


 普段何の役にも立たない眼なんていらない。普通の眼でいい。みんなと同じがよかった。そう思っていたからか、心の方も後ろ向きがちだった。


 そんな俺を幼馴染の弓弦葉ゆずるは凛香りんかが救ってくれた。凛香は八歳の時に家に来た遠い親戚の子だ。


 いつからか献身的に俺の看病を買って出てくれて、そしてかけがえのない友達になった。いや、高校生になるころにはその関係は友達以上になっていた。






 だけど、雄我が俺たちを襲った。しかも人間の力を超越した“魔人”と言うバケモノになって。


 体がひどく弱く無力だった俺は、凛香を庇いきることすらできず、むしろ何度も命を助けられたにもかかわらず、結局最後は雄我と刺し違えることしかできなかった。


 そしてその時思ったんだ。


 もし次の人生があったら大切な人を守れるくらいには強くなりたいと。


 心の底からそう願った。









 とにかく、俺は確かにあの時死んだはずだ。



 だが、死んだはずなのになぜか意識は無くなることはなかった。この死後の世界なのか夢の世界なのかわからないが、この世界で俺の意識は生き続けているようなのだ。



 正直この世界が何なのかよくわからない。


 生まれつき体が弱かった俺だが、この夢の?世界では生前の体の重さや病気の痛みが感じられないし、この世界では生前の大好きだった家族に、そして凛香に会えるのだ。


 だから、この夢のような世界が続くのならば、正直どうでもいいかなと思っている。






 そんな不思議な夢の世界を俺はもう相当に長いこと漂い続けている。正直どのくらいの時間がたっているのかすらわからない。










 そんな夢の世界を漂い続けていた俺だが、今、これまでとは違った雰囲気の空間にいた。


 目の前にばあちゃんが一人たたずんでいる。周りを見ると真っ白の空間だ。



 今までの夢とだいぶ雰囲気が違う。



 そう思ったのは、何もこの異様な空間だからと言うだけじゃなく、ばあちゃんがいつになく真剣な表情をしていたからだ。



「柳二や。ついにこの時が来てしもうた。」



 二つのポニーテールを揺らした身長140センチくらいのどこからどう見ても少女にしか見えないばあちゃんが重々しく口を開いた。



「ん?どうしたのばあちゃん? そんな深刻そうな顔して。」



「……いつだったか子供のころ、おぬしに約束したことがあったのう。“魔法が使える異世界に連れて行ってやる”と。」



 ばあちゃんの雰囲気は気になりつつも、その問いかけに記憶の海をあさる。



「そうだったか?……あぁ、ばあちゃんに引き取られて直後、ゲームをやっているときにそんなこと言ってたような気もするね。よくそんなこと覚えていたな。」



「あぁ。もちろん覚えておるよ。どうじゃ?その気持ちは今でも変わらんか?」



「ああ。そりゃぁそんな世界があったら楽しいだろうね。」



 俺は生まれた時からこの眼のせいで病弱だったから、ほとんど寝たきりだった。だからこそ、ゲームの様に魔法なんてものがある世界に憧れがあったのは確かだ。そんな世界があればだが。



「うむ。ではこれからわしが剣と魔法の異世界に連れて行ってやろう。」



「うん?何言ってんのばあちゃん。 ……あぁ、そうか。そういうことね。オッケー。」



 ばあちゃんが迫真の演技で小さい頃の俺の願いを叶えようとしてくれているわけだ。つまり、次の夢はそういう設定ということだろう。


 俺は空気が読める男だ。


 そんなばあちゃんの優しさに気づかないふりくらいはしてやれる度量はあるのさ。



 俺はOKの意志を親指を立てて答える。



「やけにノリが軽いのう。本当にわかっておるのか? 魔法があるとはいっても現実の世界だからの? これまでと違って、腹もすけば疲れもするし、ケガをすれば痛みも伴う。下手すれば死ぬかもしれんのだからな?」



「オーケー、オーケー。全く問題ないね。むしろ望むところさ。」



 今回の夢は、徹底的にリアルにこだわった設定ということだろう。ばあちゃんが夢を作れるとは思っていなかったが、あの霊子物理学の世界的権威のばあちゃんなら何でもできてしまいそうだ。


 たとえ死後の夢の世界ばあちゃんでもそれくらいはやりかねない。





 そして、この後ばあちゃんは(夢の設定を)いろいろと説明してくれた。



 一つ。

 俺は異世界に転移するということらしい。このままの姿でその世界に到着するところから始まる。



 一つ。

 異世界では魔法もあれば魔物も存在する、そんなファンタジー世界とのこと。



 一つ。

 世界の物理法則はほぼ前世と変わらない。重力も大気の構成も地球と変わらず、宇宙も存在するようだ。

 ただ、前世と違うのは《オリジン》と呼ばれる《魔法》の元となる物質が前世よりもはるかに多く存在するという点だという。


 その世界の生物はそれを活用して《魔法》を発動するのだという。



 一つ。

 異世界には人族のほかに、エルフやドワーフ、獣人や竜人なども存在するようだ。詳しくは自分の目で見て調べろとのこと。


 ますます面白くなってきた。




 次に《魔法》について。



 異世界で言う《魔法》とは、“無”から“有”を作り出す超常の力とされている。


 が、その実、《オリジン》が生物の《霊子結晶アニマ》に反応して物質が生成されることだという。

 《オリジン》とは、ばあちゃんが世界で初めて発見した素粒子のことで、現在判明している素粒子と量子論的に予言されている素粒子のすべての源になる原初の素粒子のことだ。



 《オリジン》は《霊子結晶アニマ》に触れることで物質粒子を作り出したり、力を直接作り出したりすることができるらしい。

 言い換えればエネルギーそのものと言っても過言ではないが、本来それは見えも触れもしないし、観測すらできない完全に不活性なものだ。だが、なぜか《霊子結晶アニマ》にだけは反応するらしい。これもばあちゃんが世界で初めて発見したことだ。



 その《魔法》はその生物が持つ特有のアニマの波長に応じて生じる物理現象が異なる。平たく言うと、人それぞれに魔法適正があるというのだ。



 で、気になる俺の特性は?と聞くと、主に《雷》と《光》だという。



「おお!!これは典型的な勇者パターン! ありがとうばあちゃん!」


 そうガッツポーズをとると、残念そうな顔で俺にくぎを刺した。



「柳二。喜んでおるところすまんが、おぬしには基本的に魔法は放てぬのじゃ。」



 どうやら、俺は魔法は放てないという。なんだそのハード設定は!と声を荒げるも今は無理だということらしい。


 という含みの部分が気になるが、とにかく魔法発動はできるけど体質上それを飛ばすことができないということらしい。

 なんだそりゃ?その設定に何の意味があるのか?と意地の悪い設定に不満に思う。



「まぁ落ち着け。そう言うじゃろうと思って、この籠手にちょっとした仕掛けを組み込んでおいた。それで最低限の魔法は使えるはずじゃ。」



 そう言ってばあちゃんは見事なあかと黒の籠手を手渡してくれた。



「これは……《鬼憤きふんの籠手》と《宵闇よいやみの籠手》。」



 そう。この籠手は俺の父さんが師範を務める“無幻水心流”の道場の神棚に飾ってあった、先祖代々伝わる籠手だ。なんでも破邪の力が宿るとかなんとか。



「それと、これも渡しておく。 これはおぬしの命を守る大事なものだ。どんな時も外してはならぬぞ。」



 そういって手渡されたのは黒縁眼鏡だった。いつもかけているものよりも少し柄が太い。見た目普通の眼鏡だ。



「これに色々と機能を組み込んでおいた故、大事に扱うのじゃぞ?」



「……なぁ。ばあちゃん。 これだけ?ほかになんかないの?なんかすごいスキルとか伝説の武器とかさぁ。どうもこれがチートアイテムだとは思えなくて。どっちかっていうと骨董品……」



「何を言っておるか!チートスキルなどゲームか小説だけの話じゃ。わしが手を加えた眼鏡と籠手じゃぞ。それだけで十分にチートじゃわい。」



 俺は手渡された籠手を見る。確かに戦国鎧とかに合いそうな重厚感ある見た目だが、正直骨董品に思えてしまう。

 そんな俺の胡乱うろんげな目をとがめるようにばあちゃんが言った。



「それに、柳二。 おぬしのその《彗心眼》こそよほどチートじゃろうに。わしはその眼以上のチートを思いつかん。なにせ、おぬしの眼は異世界で言うところの《魔力》が見えるのだからの。使い方次第で無双できるポテンシャルを秘めておるわい。」



 うむ・・・?なるほど。確かに《魔力》が視えたらそりゃぁ便利なんだろうけど、そんなに珍しいものなのかね。平たく言えば魔眼なわけで、よくある設定じゃないか。と内心では思いつつも、これ以上ばあちゃんの機嫌を損ねてもしょうがない。

 折角ばあちゃんが俺のために色々と考えてくれているのだから。


 そして、ばあちゃんが「では、籠手や眼鏡の使い方の説明に移ろうかの」と言ったその時。




———ザザァ!!ガガァッガーッ!




 この白い空間全体に衝突音のようなノイズ音が鳴り響いた。

 直後、激しい振動が起こり始め、そしてこの世界そのものにヒビが入り始めたのだ。



「りゅ…じ…! まさ……やい…とは! い…じか…い。…きん…のだ!」



 見ると、ばあちゃんの姿すらノイズがかかったようにかすれ始めた。そのノイズに遮られて、ばあちゃんの言っていることがよくわからない。



「どうなっているんだ? ばあちゃん! 何が起こっているのさ!?」



 激しい振動に俺は立っていることすらできず、そう叫ぶのが精いっぱいだった。直後、地面が割れ、そして俺はその割れ目に落ちた。



「……うじ!……死ぬでないぞ!!……。」



 浮遊感が内臓を押し上げる気持ち悪さを感じながら、俺は最後にばあちゃんがそういったのを聞いた。




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