第1話 異世界?へ
浮遊感を感じた直後、俺は顔面を殴られたような衝撃で目を覚ます。
!?!?!?!?!?
目を開けても何も見えない。というか目になんか色々と入った! 完全にパニックに陥るものの、しばらくして自分の顔が何かに埋まっていることに気づいて顔を起こすことに成功する。
「っぶはぁ!? ゼイゼイ。 死ぬかと思った。」
とりあえず、呼吸を整えて状況を把握しようと、目を涙で洗い流して辺りを見回したその時。
―――ヒューン……ドゴォン!!!
俺の真後ろで爆音がしたと思った直後、爆風で吹き飛ばされたのだ。
今度はなんだ!?
どうにか顔を上げて爆音がしたほうに目を向けると、そこには直径10メートルほどのクレーターができあがっていた。
しかもその中心にいかにも怪しげな黒い巨大な柱が突き刺さっているのが見えた。
六角柱の真っ黒の柱で高さは5メートル以上はありそうだ。その柱の上部に枝のようなものが何本か不規則に生えていた。まるで不気味な枯れ木のようだった。
いったい何が起こったのか?
ばあちゃんの説明が途中で途切れて、ノイズのようなものが起こり、今ここにいる。
次の夢は異世界を模したものらしいが、その夢に移行する段階で何かしらの問題が起こったのか?わからないが、とにかく異常な夢の入り方だ。
いままでこんなことはなかった。
そんなことを考えながらも、ひとまず現状把握に努めることにする。
まずは身の周りの確認だ。
突然の出来事で、心臓がバクバクしているが、ひとまずケガはない。
ただ、徹底的なリアルにこだわった結果なのか、生前常にあった体の気怠さがあった。これまでは感じたことがない、ずいぶん久しぶりの倦怠感だ。
「こんなところまでリアルに再現しなくってもいいのに。」
左手に緋色の《
上は白シャツに下は茶色のカーゴパンツ。靴は一応丈夫そうなトレッキングシューズだ。
首には、生前の幼馴染であり、俺の最愛の人でもある凛香が最期の日に作ってくれた手作りのマフラーが撒かれている。夢であれ、これは素直にうれしい。
倦怠感以外は大丈夫そうだと確認して周りを見渡す。
どうやらここは森のようだ。
あたり一面が巨木で囲まれている。あの黒い柱の周りだけが木がなぎ倒されて平地になっていた。
ひとまず、あの黒い柱に何かありそうだと思い近づいていく。その途中でなぎ倒された木の枝に黒のバックパックが引っかかっているのを見つけた。
中身を見ると、2Lペットボトルに入った水二本と、簡単な携帯食料に、防寒用アルミ毛布とカッパなどが入っていた。
「なるほど、しばらくはサバイバルをしろってことかな。」
バックパックを片手に黒い柱のところに行ってみる。
この柱、直径は50センチくらいありそうだ。何の素材でできているのかさっぱりわからないが、とにかく真っ黒な六角柱だ。
恐る恐る触ってみる。大丈夫だ。少し熱を持ってはいるが熱くはない。
……いろいろと見て、触ってみるが、何も変化がない。
「一体これは何なんだ?……」
―――ピピッ!
急に電子音が聞こえたと思ったら視界の端に矢印が映ったのだ。反射的にそちらを向くと、その表示が矢印から小さな丸に変わり、はるか前方50メートル先のクレーターの外の草むらを指し示していることに気づく。
「ん?なんだこれ?」
このメガネAR表示機能がついていたのか。
その丸印の表示の中心をよく見ると、草木の間に何かがいるのが見えた。
遠目にそれを注意深く観察していると、草むらから何かが飛び出してきた。
それは、ウサギだった。
ただのウサギじゃない。 体長70センチはありそうな巨大ウサギだ。しかも頭から鋭いねじれた角が突き出ていた。それがこちらにすごい勢いで飛ぶように接近してきている。
恐ろしい速さだ。
―――ピピピ!
眼鏡の表示がその姿をしっかり追っている。その丸い表示の上部に『ALT:5』という文字と『ホーンラビット(魔獣)』という文字表示が浮き上がってきたのだ。
「おいおい!?この眼鏡、スカ〇ターかよ!っていうか魔物か!?」
眼鏡の機能に驚いている場合ではない。魔獣と思われる生き物が猛スピードで俺に迫っていた。しかもあのウサギ、なんか真っ赤な目がやばい。完全に俺を仕留めに来ている。
初めての魔獣遭遇にたじろいでもたついている間に、もうウサギはクレーターの外延部にまで到達していた。
そしてその逞しい後ろ足が光ったのを《彗心眼》でとらえた直後、弾丸のように角を突き立て一気に跳躍してきたのだ!
「うぉ!?」
俺は腰が引けながらも、反射的に身をよじってギリギリでその突撃を躱した。生前から鍛えられ体に染みついてきた無幻水心流の反復練習が反射的に体を動かしたようだ。
その凶悪なウサギは俺を通りすぎてすぐに反転して、再度俺に襲い掛かろうとしていた。
だが、その次の瞬間。
あの黒い柱が突然輝きだし、その光が瞬時のうちに俺たちを包み込んで広がり巨大な光のドームを形成した。丁度クレーターと同程度、直径10メートルはありそうだ。
そして、その光に包まれたウサギは急に脱力したようにその場でうずくまったのだ。
「なんだ!?」
急に起こったその現象に俺もドキリと心臓をはねさせたが、同様に光に包まれている俺には何も影響がないことに気づく。
うずくまるそのウサギの様子をうかがっていると、戦意を完全になくしたのかよろよろと歩きながらこの光のドームから抜け出し、抜けた瞬間脱兎のごとく姿を消した。
「これは……この光のドームが魔獣の動きを阻害するのか? 魔除けみたいなものかな。」
どういう原理かは知らないが、さすがばあちゃんだ。 この黒い柱は俺が安全に異世界を楽しめる様にとセーフティーエリアを作ってくれるもののようだ。
ふう。と一息ついて、再度今起こったことを整理してみる。
黒い柱を見ると薄らと光って見える。コレは俺の《彗心眼》に映ったものだ。肉眼では見えない。
ばあちゃんが言っていた。俺の《彗心眼》に映る光は、①《オリジン》と②《
光るドームが見えるという事は、つまりは《オリジン》=《魔法に関するもの》だと言う事だ。先程も言ったが、魔物の行動を著しく阻害するバリアみたいなものだろう。
そしてこのメガネの機能だ。今は何も映っていないが確かに魔物の表示が出た。
AR機能で名前まで表示されていたのだから間違いないだろう。
そう思って色々と弄っていると“ピ!”と電子音が響き、メガネの視界の右下に小さな逆三角形の点滅する表示が現れた。どうやらメガネの右の柄の部分を触れると表示されるらしい。
その中空に浮いた様に見える表示を押す様に中空で指を動かすとメニューが表示されたのだ。
――――――――
・マップ
・魔法(オート)
・オプション
・ヘルプ
――――――――
と言う簡単なものだ。
だが俺はそこに見逃せない文字を見つけ、歓喜で指が震えた。そう。《魔法》だ。
それを押したい衝動をぐっと我慢して他のものから先に確認することにする。大好物はあえて最後まで残して食べる派なのだ。
まずは“マップ”だ。
タップすると、画面右上に半透明な囲いが現れた。中心に点が周りに円があり、それを囲う様にうっすら緑の領域が広がっているが、それだけだ。
スマホの様に二本の指で拡大縮小が可能だが、中心点の周囲はグレーアウトされていて何も表示されていない。
おそらくは、自分の行った範囲だけが更新される仕組みなのだと思う。いわゆる自動マッピングと言うやつだ。そうだとしてもこれは助かる。少しここを離れても森に迷うような事は無いだろう。
マップ表示画面右上に“GPS:N.A.”と有ることから、本来GPS機能があったのだろうが何かしらの理由で使えないらしい。通信設定か?
そう思って、次に“オプション”をタップしてみる。
なになに、どうやら細かな設定ができるようだ。例えば、AR機能の表示有り無しや警告音の有無、画面のユーザーインターフェースなどだ。
その中に、“通信”と言うメニューを見つけ、タップする。そこには“ATC(遠距離霊子通信)”と“ASC(近距離霊子通信)”の項目があった。
ATCは“圏外”となっており、通信設定は出来そうにない。ASCの項目をタップすると“Augmented Optional Parts;α、β接続中”となっており、それ以上の設定は出来ないようだった。二つの近距離通信となると、もしかしたらこの籠手との通信の事を指しているのかもしれない。
それ以上の項目に特出したものが無かったので、次に“ヘルプ”をタップしてみる。
このメガネの機能の概要説明といくつかの詳細設定が記載されている。
ただ、所々どうでもいいばあちゃんの作成秘話や自慢話の様な説明も散見されたが、残念ながら途中からxxxxという記載に変化して、読めなくなっている箇所が多かった。
読める範囲で要約すると以下だ。
1.このメガネは俺の異世界での生活をサポートする目的でばあちゃんが作成した
2.俺の体質を補強するためのツールになっている。その為いかなる時もこのメガネを外さないこと
3.初歩魔法の補助やマップ機能、索敵能力機能などが実装されている
4.二つの籠手と合わせて機能する様になっている
5.俺にとって危険となり得る生物が接近するとオートで索敵を実施し接近を知らせる
とのこと。それ以上の細かいところは残念ながら表示がバグっていて読めない。
とにかく、このメガネと籠手のセットで俺をサポートしてくれるものだ。ありがたい。
そしてもう一つ。
このメガネがウサギの魔物の接近を捉えた時に表示された“ALT”と言う表示。その意味が記載されていた。
“ALT:アニマルミナスティーの略称。霊子結晶の強度を表す指標であり、おおむね生体としての強さと比例する。”
つまりはこの世界での強さの指標。いわば戦闘力と言い換えてもいいかもしれない。まさにス〇ウターだな!
基本的にこのスカウ〇ー機能はオートで働くようだが、マニュアルでも発動するようだ。その生物に焦点を合わせて右の柄の部分を二本指でタップすると測定できるらしい。
となれば、まずは自分のALT測定するっきゃないでしょ。という事で早速自分のかざした手を見て測定開始だ。
―――ピピピピピピッ!
中々測定が終わらない。ALTの数値は見る見るうちに上昇していき、留まることを知らない。もはや既に数百を通り越して数万の桁になっているが、止まらない。
まさか俺のALTがとんでもないという事なのか?などと期待に胸を膨らませて測定終了を待ち続ける。
年甲斐もなく子供の様にワクワクしてしまうじゃないか。
……しばらくしてついに上限と思われる999万で張り付いた。
「これは……とんでもないことになってないか!?」
さすがばあちゃん!イキな設定してくれてるじゃん!まさに天下無双、最強の俺TUEEE!驚きと歓喜で小躍りしてしまいそうな俺を尻目に、測定の電子音は止まらない。
そんな有頂天な俺をあざ笑うかのように、しばらくすると数値が見る見るうちに低下していく。
それに気づき、ん?なんだこれ?と訝しんでいると、ついには“0”になってピーと言う電子音と共に測定が終了した。
「……は? どうなってんだ?」
しばらく待ってると“ALT:測定不能”と出た。
……期待させておいてなんだよこれ。やっぱ壊れてるんじゃないか?たまにばあちゃんが作った実験装置が派手な音を立ててぶっ壊れるのを何度も目にしている俺からすれば、今回もやらかしてしまったのでないかと言う疑念が湧いてくる。
一先ず俺のALTの事は忘れよう。下手に意識すると凹む。
気を取り直して、《魔法》の項目を見てみよう。タップするとメニュー画面が変わった。
――――――――
《光》
・
・xxxxx
《雷》
・
・
・xxxxx
《無》
・
・
・xxxxx
《xxxxx》
――――――――
「こっ、これは!?魔法メニューか!?」
俺は逸る気持ちを抑えながらも、その甘美な表示に抗いきれず震える指で《灯(ライト)》の表示をタップした。
その直後、俺の体全体がうっすらと光ったのだ。
「おお!?光った? 光ったぞ!!」
イメージとちょっと違うが、ただ今は自分が未知の《魔法》を発動できたことその事実が重要だ。まさに子供の頃に夢に見た魔法が今この瞬間俺の目の前で、しかも俺の意志で発動した。
その事実がどうしようもなく俺をワクワクさせるのだった。
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