第五十話〜最終話
第五十話
「献呈序曲」
作曲者のクリフトン・ウィリアムズ Clifton Williams (1923-1976)はイーストマン音楽院でハワード・ハンソンに師事。一般的に知られるこの人のイメージを一言で言えば、SFミリタリーもののサントラをそのまんま吹奏楽曲にしたとでもいいますか。とにかくかっこよくて、オーケストレーションが(特に金管の運用が)華麗で、でもしっかりした構成で、吹きごたえも振りごたえもばっちり、というイメージの人ですね。
湾多的には、アメリカ新古典主義の特徴がわかりやすく出ている吹奏楽作曲家、という印象があります。要所々々でアカデミックな技の匠がほの見えるんですが、一方でどこか詰めが甘いと言うか 笑、悪い意味で、どこか「子供向け」に作ってねえか? と言いたくなるところも。そのへん、師匠のハワード・ハンソンや、一応は一般音楽史にも名前を残しているウィリアム・シューマンなどとは、失礼ながら格の違いを感じてしまったりもします。
ただ、そんな中でも「献呈序曲 Dedicatory Overture」は傑作だと思います。本作は1964年作曲。演奏時間八分前後の内容は大きく四部分に分かれ、特に名前はついてませんが、大まかには「ファンファーレ」「ヒム(賛歌)」「マーチ」「コラール」のような構成になっていて、それぞれの有機的な結びつきが見事です。冒頭のテーマとか、フィナーレの締め方とかは、最高に魅力的とは言えないかもしれませんが、聴けば聴くほどに味が出てきてドハマりしそうな面白みのある曲です。
難易度は本来なら決して低くはないのですけれど、たとえば主要部分での金管楽器の音域を見るとそれほど高くなく、ヤバイところはオクターブ下げる等の措置が許される書き方をしている(ように見える)ので、小学校バンドでも時々コンサートの演目に乗せているのを目にします。が、特にフィナーレ部分のモチーフのつなぎ方など、説得力ある演奏をするのは、高校バンドでも実は結構難しいのではないかと思います。
第五十一話
「ヤンキー・ドゥードル」
アメリカ民謡。独立戦争時代の流行歌、みたいなものだったようです。日本では「アルプス一万尺」の名前で山の歌として知られています。他、CMソングとして替え歌パターンも無数に。
第五十二話
クラリネットのキュイーッというリードの鳴り損ないの音
キュイーというか、キィーというか、ピーというか。息の量とか、リードをくわえる強さとか、くわえる位置とか、あるいはリード自体の品質などの要因が、出すべき音の適正値と合わない場合、リードが変な振動を起こして悲鳴のような音が鳴ってしまうことがあります。アマチュアのクラリネット吹きには頻発する現象で、サックスでもたまに起こります。
最終話
フェルマータ
その音(または休符)を延ばして、の意。
もともとの意味は「停止する」。バロック時代には曲の終わりの音符、または終止線につけて、「ここで音楽を停める」という意味合いで使っていたようです。この時点では、音を延ばす意味はありません。
古典派になって、フレーズの半ばでも、これがついたら音楽をそこで停める、という意味になり、ロマン派以降は、「意味ありげに音(休符)を延ばして、かつ停める」という意味にまでなりました。
現在の音楽の教科書などでは「音を二倍にする」などと書かれていますが、別に二倍と決まっているわけではなく、そのへんはセンスの問題です。
自然短音階 エオリアンモード
ピアノの白い鍵盤をラから始めて、ラシドレミファソラと鳴らせば、それが自然短音階です。一般的な書法の西洋音楽では、普通の短音階でハーモニーを作る際、ソの音(つまり第七音)を半音上げる処置が必要になるのですが、あえてそうしないままで音楽を作ればエオリアンモードになります。古くは中世風、近年ではエスノ調の雰囲気を作る方法の一つとして選ばれることが多いです。
ミクソリディアンモード
わかりやすく言うと、シの音がフラットになっている音階。つまりは、前掲のフリギアンモードやドリアンモード同様、普通のドレミファソラシドではない、特殊な音階ということですが、この音階を使っている例は意外と多く、例えば「スターウォーズ メインテーマ」の最後の部分とか、その他映画音楽とか、J-popやCM音楽でも当たり前のように出てきます。あと、もともとブルース音階はミクソリディアンモードと少しの違いしかないので、アメリカンスタイルの曲はえてしてミクソリディアンに聞こえますね。吹奏楽曲では、80年代の一時期など、アメリカから出てくる新曲のほとんどがミクソリディアンだったりしました。
以前に挙げた「大江戸捜査網のテーマ」などは、バリバリのミクソリディアンの例ですね。
ベルアップ
金管楽器のベルの部分を普通より上げる演奏の姿勢。トランペット・トロンボーンの場合は、やや上向きの角度にして吹くだけですが、これの効果はバカにならず、音響の面では立奏(スタンドプレイ)と同じぐらいの効果が出ることも。ただ、ホルンの場合はもともとベルが後ろ向きになっている構造なんで、ベルアップの効果がどの程度出るかは微妙なところで、ホールや舞台の音響構造をよく判断して、ホルンの配置などにも配慮しないと、ただの視覚効果だけで終わることもしばしば。ユーフォ、チューバはベルアップしようがないのでこの言葉は使われませんが、あえて楽器を横向きにして、真正面にベルが向くようにして吹くと、尋常じゃない効果が出ます。でも、席の位置によっては指揮者が見えなくなるんですよね……。
ソリ
ソロの複数形。複数人数で同じパッセージを鳴らすこと。その中身は旋律でなくてもよく、ある程度目立つ形で鳴っている音楽のパーツであればsoliの但し書きが入ります(その点はソロも同様)。
イレブンスコード
十一の和音。根音を含めて六つの音を三度ずつ積み重ねて作る和音。ドが根音であれば、「ドミソシレファ♯」の和音がそれに該当します。ただし、ピアノなどではここまで厚い和音は弾ききれないので、いくつかの音を省略するのが普通です(通常は根音と第五音をカットします)。
カデンツ
フレーズを閉じる時のコード進行のパターンのこと。いわゆる終止形。大まかには三つ四つの和音の組み合わせから構成し、古典的な和声法だとそのパターンは十種類ぐらい。きっちりフレーズが終わった感じになる「完全終止」、一応区切りは付くけれどもはぐらかされた感じになる「偽終止」、やはり切れるんだけれども露骨に続きがありそうな「半終止」などなど、音楽上の接続詞みたいな色合いを重ねて説明されることが多いです。
注釈「美緒とチューバ」 音楽用語に不案内な方、あるいは吹奏楽ネタで遊びたい方のための、湾多流語義解説 湾多珠巳 @wonder_tamami
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