『言葉だけでこんな鮮やかな世界を描き出すことができるんだ』
私がこの作品を拝読して、初めて感じたことです。
自分の作品とのレベルの違いに心底凹むことは多々あるのですが、そういう次元でなく、比較するのもおこがましいと感じた作品がいくつかあります。
この作品がそのひとつです。
どんなに素晴らしい感動的な物語であっても、それを広げることができる世界・設定が構築されていなければ、その良さは読者には伝わりません。
そして、どんなにご立派な世界・設定を構築しても、それを描き出せる力がなければ、やはりその良さは読者には伝わりません。
作者の矢口先生は、類稀なる文才により、その物語・世界観を見事なまでに描き切ります。そしてその表現力は、登場人物たちと一緒に空を飛ぶ感覚を得ることができる程です。
それは大げさではなく、多くの絶讃レビューや星の数が私の言葉の証左と言えます。
テンプレ設定の異世界ファンタジーものも良いでしょう。
しかし、自身の頭の中で描き出した独自の世界こそが『ファンタジー』だと思うのです。
そして、それを言葉の力で描き出せるのが『作家』さんなのだと思います。
(テンプレ設定の異世界ファンタジーものを否定するわけではございません!)
まずは、序章・第一章をお読みいただき、その世界を体感してください。
ファンタジーがお好きな方であれば、きっとご満足いただけることでしょう。
まるで、児童文学を発掘したような珠玉のファンタジーワールドがつまっていました。
虹色の髪を持つ子爵令嬢、パステル・ロイドは、色を見分けることができまない。そんなパステルの元に、ある日、突然空からセオと名乗る少年が降ってきた。セオは、感情を持たず、何処から来たかも分からない不思議な少年で――。
そんな、パステルとセオの色彩とココロのを巡る物語。
個人的にはボーイミーツガールというだけで、テンションが滾ります(^^ゞ
色を視えない少女。正確には、色を記憶とともに、落としてしまったパステルと。
ココロ――感情の意味が理解できない、セオとの微笑ましい邂逅。
読み進めながら、純粋な感情を思い出してしまいました。
考えてみたら、なんですけどね
最初からみんな、何もできないし。何も分からない。感情を破裂させたり、触れたり、ぶつかっては、抱きしめたり。そんなことの繰り返しで、みんな大きくなるんですよね。
同じように、分かったふりでいる大人も一緒なのかもしれません。本当に大事なことを忘れて、色が視えなくなっていないだろうか。
この物語のパステルとセオは、打算なんか感じさせないくらい純粋です。
相手を思う気持ち。自分が何ができるか。その今できる全力でぶつかっていく。
もしかしたら傷つくかもしれない。失っちゃうかもしれない。それでも、恐れずに。そんな二人の姿に、胸を打たれるのは、読者だけじゃないはず。
色が視えないのはパステルなのか。
僕らなのか。
登場人物達なのか。
それぞれの色が攪拌されて、混色されて、キャンバスに思うがままに塗られていく、物語はこんなにも暖かい。
色彩豊かな感情はそれだけで魔法なんだって、思わせてくれます。
現在、このレビュー執筆時点で、第2章終了間近。色を求める旅はまだまだ続きます。
この美しい世界に触れてみませんか?
読者の数だけ、きっとこの色彩は増える。
そんな旅が待っています。
読んでいると目の前に浮かぶ不思議な情景に、楽し気に駆け巡る様々な妖精達。
この物語は、作者様の美しい情景を描き出す筆致が幻想的な世界をあなたに見せてくれる作品です。
貴族令嬢のパステルは、自身の視界から色を失っていた。
その特徴的な虹色の髪は美しくも奇抜で、人から後ろ指をさされ続けた彼女は自信を喪失し世界を閉ざす。
そこに、空から降ってきたように突然現れた、美しい少年セオ。
その不思議な少年の周囲では、とっても不思議なことが起こる。
洗濯ものも、泊まるところだって、不思議な力でちょちょいのちょい。
やがて可笑しくも可愛らしい妖精達が登場し、最初は暗い世界に閉ざされていたパステルにも明かりがさしてくる。
そんなパステルの隣にいることで、失われた感情に変化の兆しが見られるセオ。
こうして二人は互いに惹かれ合い、不器用に繋がりをもとめる。
そうして、過去と失われたものを求め、二人の旅は始まるのです。
宝石箱のように綺麗が詰まった物語、手に取って見てはいかがでしょうか?