「文章ならでは」の名演奏は存在する。

手放しで褒められる傑作ではありません。
本作はそこそこ長く、中だるみもあり、登場人物は迷走しがちです。

でも、最終回は掛け値なしに最高です。
それまでの不満を全て吹っ飛ばすほどの、圧倒的な破壊力で締めくくられます。
まさに、終わりよければ全てよし。
途中で読み止めてしまうのは、あまりにもったいない。
誰かにそう伝えたくて、思わずレビューを書きました。

本作の舞台は中学の吹奏楽部ですが、圧巻なのはその演奏描写。
文章でこそ「聴く」ことが出来る演奏もある、と知りました。
著者は学生時代、自他ともに認める吹奏楽狂だったとか。
音楽に疎い私ですが、作品の随所に込められた著者のこだわりは、否応なく伝わります。まさに熱意。問答無用の情熱です。

作品全体はコミカルで、いなさそうでいそうな吹奏楽の部員たちが、部活あるあるを披露しながら、衝突したり恋愛したり。嫌々転向したチビっ子チューバ奏者の主人公は、そんなカオスな部内に冷ややかな目を向けながら、淡々と演奏会を目指していましたが、いつしか一目を置かれ、望まず部の中心人物に。そして吹部の混乱の原因が「昨年の奇跡」であることを知ります。

優勝を目指す熱もない、一丸となるでもない。そんなありふれた部活動の果てに、何が起こるのか。

是非是非、最後まで読んでみてください。
我慢するだけの価値は、必ずあると保証します。

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