突如、婚約破棄を告げられたアシュリー嬢。長年戦争状態にあるアダナスの国境近くへ旅行に行ったことがその理由だった。そして、それを誘ったのは裏切りの過去があるメフィメレス家のヴィタリスだったのだ。
冤罪で断罪されそうになったアシュリーは絶望するが、そんな中、キスをすることで相手の肉体と入れ替わるという、奇妙なことが起きると気付いて……。
呪いを有効利用して、事態を改善していくアシュリーの前向きな姿勢を応援したくなる佳作。入れ替わり、さまざまな人々と普段とは別の形でかかわることで、アシュリーの恋模様も変容していく。ファンタジーでありながら、地に足の着いたラブロマンスも楽しめる恋愛ファンタジーの快作。
物語と文章の丁寧さが光る、抜群の一作。
令嬢もの、入れ替わりものというテンプレ形式でありながら、インパクト重視の行き当たりばったりの雑なストーリーにせず、作者なりに工夫し、物語を構成しているのがありありと感じられました。
次々と入れ替わりながら、新たなミッションに挑む展開は、ちょっとしたゲームのような没入感があります。
ほどよい文章量、場面転換のテンポも長所です。
アシュリーのキャラクターにも嫌味がなく、お人よしながら馬鹿でもなく、絶妙な距離感で読者の代理を果たしてくれます。
最後までリズムを狂わせることなく完走された点も高評価。
ラストは淡白ではありましたが、短い映画を見終えたような感慨を覚えました。