手放しで褒められる傑作ではありません。
本作はそこそこ長く、中だるみもあり、登場人物は迷走しがちです。
でも、最終回は掛け値なしに最高です。
それまでの不満を全て吹っ飛ばすほどの、圧倒的な破壊力で締めくくられます。
まさに、終わりよければ全てよし。
途中で読み止めてしまうのは、あまりにもったいない。
誰かにそう伝えたくて、思わずレビューを書きました。
本作の舞台は中学の吹奏楽部ですが、圧巻なのはその演奏描写。
文章でこそ「聴く」ことが出来る演奏もある、と知りました。
著者は学生時代、自他ともに認める吹奏楽狂だったとか。
音楽に疎い私ですが、作品の随所に込められた著者のこだわりは、否応なく伝わります。まさに熱意。問答無用の情熱です。
作品全体はコミカルで、いなさそうでいそうな吹奏楽の部員たちが、部活あるあるを披露しながら、衝突したり恋愛したり。嫌々転向したチビっ子チューバ奏者の主人公は、そんなカオスな部内に冷ややかな目を向けながら、淡々と演奏会を目指していましたが、いつしか一目を置かれ、望まず部の中心人物に。そして吹部の混乱の原因が「昨年の奇跡」であることを知ります。
優勝を目指す熱もない、一丸となるでもない。そんなありふれた部活動の果てに、何が起こるのか。
是非是非、最後まで読んでみてください。
我慢するだけの価値は、必ずあると保証します。
この作品は、音楽のどこかにクマのぬいぐるみマックスを探す小さなチュービスト美緒と、吹奏楽部の個性豊かな音楽バカのみなさんが送る青春音楽作品…のように見せかけたコメディ作品です!
美緒が望まむ形で入ったチューバパートでの練習中に感じた違和感から、様々な騒動に彼女は巻き込まれていきます。
(本人が望んでいるかは別として)騒動に巻き込まれていく彼女はマックスがいると踏んだトランペットパートに行くことはできるのか、それともマックスがいる感覚は別の場所にあるのか、美緒を騒動に巻き込んでいく上級生の思惑とは!
音楽バカの贈るクスッと笑える音楽コメディ作品です!
11月22日
安藤栞
自分が吹奏楽をやっていたのは高校だけなので、中学の吹部事情はあまり知らない。
日本全国の至るところでこんなやり取りが繰り広げられているのかもしれないし、もしかしたら「美緒ちゃん」の物語の中には、こっそり作者の実体験が含まれているのかもしれない。
全話読み終えてしばらく経った今日、ふと気になった。
美緒ちゃんが大人になってから、物のはずみでこの吹部生活を思い出した時、果たして彼女は何を考えるだろう。
懐かしいなあ、くらいで済むだろうか。
大変なことも色々あったけど楽しかったなあ、と青春の思い出を噛み締めるんだろうか。
……いやいや。
もし私が美緒ちゃんだったなら、もう二度と思い出さなくて済むように記憶の端っこへ追いやるんじゃないだろうか。
あるいは小説という創作物、フィクションとして記憶を塗り替え消化し、ネットの海へポイと放り投げるんじゃないだろうか。
どうか永遠に「幻想」の中で生きてくれ、ってね。
さて。
「あなた」は、この部活動体験記を読んで何を思い出しましたか?
中学の吹奏楽部のお話です。この手のお話だと「響けユーフォニアム」という名作がありますが、あれは「高校生」のお話、これは「中学生」のお話です。
なんだ「中学」と「高校」なんだから、そんなに変わらないじゃないか?と思うじゃないですか?それが、大違いなんですよ。ある程度の規律を「中学」で学んだ「高校生」の物語と、これから「規律」を学んでいく「中学」では、全然違うのです。
そう「吹奏楽」は「みんなの心を合わせなければ」、うまく鳴らないのです。「先輩」と「後輩」のワガママゆえの葛藤、「中学生」ならではの「問題の向き合い方」と「挫折」。作者さまは「中学生という世界」を、じつに客観的に正確に捉えていて、そこらへんの描写が完璧に近いです。
ただ、注意点もあります。音楽の専門用語が出てきますので、音楽の基礎知識がないと「理解」が難しい表現があるのと、1話の文字数がそろってないので、読了の時間を測るのが難しい事です。
ただ、内容的には素晴らしいものになりますので、検索しながら時間の余裕を持って読んで欲しい一作です。