そして、また季節ははじまる
私は、マロッサの羊羹を作るために、砂糖、寒天、水を温めているところに、こしあんを加えてかき混ぜていた。
(昨日、オスマンサス様と約束したからね。おいしくなあれ)
オスマンサス様の喜ぶ顔を想像しながら、ゆっくりゆっくりかき混ぜる。今度は、歌を最後まで聞いてあげようかな。ようかんだから、「おいしーよーかんしゃ」とかいうのかなー。その時のことを想像して、ふふふっと笑った。
カランカランカラン
お店の扉のドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
お店の扉が開く音がする。はいってきたのは、青い髪のヘイルズ王子 ――もとい、冒険者トラビスさん。ともう一人。背の高い男性。
よく見れば、王都で顔見知りだった男性。名前は確か、ニューリッキ。ヘイルズ王子の側近だった人。魔法使いで、生真面目で、話が長いというので有名だった人。
二人は、扉のところで、コートをバサバサと振っている。そして、キッチンカウンターに一番近い席に座った。
「ひやー寒かったぜ!! 外は一面の雪だ。もう、雪と氷の女王の季節になったようだ。昨日までとは全く違う空気の匂いがする。不思議だよなぁ。四季があるって」
「え? 雪?」と、私も慌てて外を見る。うっすらと地面に雪が積もっているのがわかった。
「ロッティ、あんまんを二つ頼む!」とヘイルズ王子が言うと、「ここのあんまんは旨いんだぜ」とニューリッキに話している。
「あんまんとは、いかなる食べ物でしょう?」
「食ってみればわかるさ」
「しかし、王子、その言葉遣いはあまりにもひどすぎるのではありませんか?」
「はあ? お前さあ、俺は王子じゃなくて、冒険者トラビス。冒険者らしくしなきゃいけないだろう? お前も、もう少し、砕けた感じにならないのか?」
「それは無理です」
「それじゃあ、なんで、俺についてきたんだよ?」
「王に頼まれたからです。それに――、「はい、あんまん、お待ちしました。二つで銅貨五枚になります。このお店は前金制なので、お支払いをお願いします」」
二人の会話を邪魔するように、あんまんと薬草茶を机の上に置いた。ヘイルズ王子が男性に、一気に食べると熱いとか、アツアツホカホカがウリだとか説明している。
カランカランカラン
お店の扉のドアベルが鳴る。
私は、扉の方をみる。びゅうっと冷たい空気と一緒に入ってきたのは、真っ白なドレスをきた女性。銀色の長い髪、透きとおった空のような青い目。陶器のように白い肌。手にはチラシのような紙を持っている。
(誰だろう? ギルドに置かせてもらっているチラシで、お店に来たのかな?)
「ここか。あやつが書き残した場所は……」といいながら、つかつかとお店の中に入ってくる。
「お席はお好きな場所にお座りください。当店はあんまんの専門店です。お代は前金制になっています。あんまん一つで銅貨三枚になります」
女性は私の言葉を何も聞かず、つかつかと私のそばに来た。値踏みするような目で私をじっと見る。
「あの…………」
「ああ。豊と実りがな。自分の代わりに『ひつじぐも』へ行くように書き残していてな」
持っていた紙をひらひらとさせると、私から視線をそらして「わらわの席はどこじゃ?」と聞いた。
「…………、失礼ですが、豊と実りの王は……?」
「あやつはもう眠りについた。今度はわらわの季節じゃ。美味しいものが食べられると豊と実りが言っておったからな。楽しみじゃ」
(この奇麗な女性が、雪と氷の女王なんだわ)
「そうですか」と私は少し残念な気持ちをどうすればいいかわからず、下を向いた。
カランカランカラン
お店の扉のドアベルが鳴る。
私は、顔をあげて扉の方をみる。アランさんだ。アランさんは、雪と氷の女王に気がついて、顔をしかめた。そして、そのまま出ていこうとする。
「アラン! わらわの相手をせよ!」と雪と氷の女王がアランさんを見つけて、声をかけた。「へいへい」と言うと、アランさんは、雪と氷の女王をつれて席に着く。
「ロッティ、あんまんを二つ頼むわ」
そう言うと、銅貨を五枚、机の上に置いた。
◇
外は雪。季節は、豊と実りの王の季節をおえて、雪と氷の女王の季節。
新しい風が吹き、この『ひつじぐも』にも新しいお客様がくる。
………、羊羹は、来年の豊と実りの王の季節までお預けね。
おしまい。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
甘味処『ひつじぐも』へようこそ 一帆 @kazuho21
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