『おはぎ』を食べよう


「あー。ジュードだけ、なんかおいしそーなものたべてる! ずるーい!!」

「これはなんだ? 赤紫のレビンのあんこか?」

「ねー、ねー、これ食べていい?」

「そーです……、あっ、シルビア、ロッティが来るまで我慢して!」

「こっちはマロッサだな。これはどうするんだ? このまま食うのか?」

「アラン、マロッサを見ていないで、シルビアをとめて!」 

「ねーねー、食べていい?」

「食べちゃだめ」

「ジュードのいじわるー!! ねーねー、食べていい?」


 わちゃわちゃわちゃ………


 店の裏で、ヘイルズ王子と樽を積んでいる間に、お店にはアランさんとオスマンサス様とヴィー様が来たらしい。お店に戻ってみると、わちゃわちゃ、大騒ぎしている。


「ロッティ~!!」とヴィー様が私をみつけて走ってくる。


「ジュードったらね、食べちゃダメって言うんだよ? 自分は食べたのにさ」


 ぷうっと顔を膨らませている。


「ヴィー様の分もちゃんとありますよ」とヴィー様に笑いかける。途端、ヴィー様がにぱーっとした笑顔になる。


「食べたい!! 食べたい!!」


 小躍りしそうな勢いだ。


「お皿にのせて持っていきますから、座ってください」


「うん! でも、オスマンサスは立ってるよ?」とキッチンカウンターをのぞき込んでいるオスマンサス様を指さした。


「この赤紫のレビンの塊が気になるのだ」


 言い訳がましく、オスマンサス様がキッチンカウンターにある『おはぎ』を指さす。


「それは『おはぎ』です。今から、それをお皿にのせて持っていきますから、座ってください」


「そうか。それならば」といって、オスマンサス様が席についた。隣にはアランさんが、向かい側にはヴィー様が座った。


「おはぎはもういいかな。なんか、久しぶりに振り回されて疲れた。帰る」とジュードさん。

 

 ジュードさんが帰ると言うのに、ヴィー様が「おはぎー」と叫んでいる。だから、「私がいない間、なにがあった?」とも聞けず、挨拶もそこそに帰してしまった。


 私は急いで『おはぎ』をお皿にのせると、机に持っていった。


「これが、『おはぎ』です」

「おはぎー!!」

「レビンの塊にしか見えん」

「アランさんは、気に入りませんか?」


「いや、そんなことはない」というとアランさんが一口でおはぎを食べてしまった。


「お? 熱くない!! レビンの塊だと思ったが中になにかあるぞ?」

「コメだな。それも、食感をよくするために、いい具合に潰してある。それがレビンの粒と混ざり合って、なんともいえない食感だ。レビンの甘味とコメの甘味が混ざって、くどくないところもいい。熱いあんまんとは違って、これはゆっくりと堪能できるな」

「おいしい。おいしい。おいしい!! もっと食べたーい!!」

「この『おはぎ』のすばらしさを歌にしたぞ。

 おお、麗しのレビン

 そなたの愛らしさは、魔をしりぞけ、幸せを運ぶ

 おお、愛しのレビ―――「ロッティ、お茶をくれないか? あんまんの時と違って、口いっぱいにおはぎが残る。うまいのだが、お茶が欲しい。あと、できるなら、次のおはぎを持ってくるときに塩を頼んでもいいか?」


 アランさんが、オスマンサス様の歌をあっさりと切り捨てる。珍しく、オスマンサス様がむうっとした顔をしていたんだけど、すぐに口角をあげた。アランさんがちゃっかりとおかわりをしているのが分かったみたい。


「お茶はすぐ入れるけど、……、どうして、塩?」

「塩を少しばかりかけたら、もっとうまくなるような気がしてな」

「そうだな。私もそう思っていたところだ」


 確かに、甘いあんこにはお塩があると、甘さがひきたつ。味の対比効果っていうやつね。私はミンティア茶をいれて、小さなお皿に、少しだけ大きい粒の塩をのせる。


 私は、おはぎ、ミンティア茶、塩を持って三人のところにいく。

 二つ目のおはぎも、三人ともあっという間に食べてしまった。ヴィー様はまだ食べたいと駄々をこねたから、キッチンカウンターにいって、もう『おはぎ』がないことを見せた。


 ミンティア茶を飲みながら、オスマンサス様が、カップ越しに私の顔を見る。言いたいことがあるのに言えないって感じがひしひしと伝わってくる。意を決したように、オスマンサス様がコホンと咳ばらいをした。


「……ロッティの……、…あのマロッサはどうするつもりなのだ?」

「あれは、マロッサの羊羹を作るつもりです」


「ヨウカン? それはまた聞いたことのない食べ物だな。楽しみだ」とほほ笑むと、一度、目を伏せて、そしてまっすぐ私の顔を見た。今度はカップは机に置いてある。


「ロッティの魂が狙われているとは知らなくてな。すぐに助けることができなかった。私達もいろいろしがらみがあってな…………」


 珍しく、ごにょごにょっと話をする。


「オスマンサス様は、雨を降らせて、助けてくれたではありませんか。雨がなかったら、今ごろ、どうなっていたか……」


 思わず私はふるっと身震いをした。


「あれは……、お前たちが真摯に祈ったからだ。……、そういえば、白玉ぜんざいという言葉を聞いたが、あれはなんだ?」


 そこー!! オスマンサス様に謝られたらどうしようと思っていたのに、供物を要求されるとは! さすが、食いしん坊なオスマンサス様!!


 私はなんだかおかしくなって、ふふふっと笑ってしまった。みれば、オスマンサス様もふふふっと笑っている。


「コメで作ったお団子とあんこで作る食べ物です。マロッサやリンコウをのせて食べようと思っています」

「リンコウ!! マロッサ!! たべたーい!!」

「わかりました。これから作りますので、すこしお待ちくださいね」






 それから、マロッサとリンコウをのせた白玉ぜんざいも食べて、今度はマロッサの羊羹をふるまう約束をして、オスマンサス様達は帰っていった。


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