人と龍と神。平穏な日常に一石が投じられたときに初めて、人の歴史が始まる
- ★★★ Excellent!!!
ある日龍の少年である主人公が1人の青年を助けたところから物語は始まる。
閉ざされた世界、どしれた文化で生きてきた主人公は彼との温かな触れ合いの中で、人の世を知っていく。けれども平穏に見える日常の裏で、刻一刻と世界は次へと歩みを進めていた。
これは人が世界を手に入れるその始まりを描いた物語──。
本作はタグや説明を見る限り、中国の故事や伝承を元に作者様なりのアレンジを加え、現代の読み物としたもののようです。
そのため人名・地名、言葉の端々に中華の雰囲気が滲み出す。舞台が海の近くということもあって、「日本」とは違った空気感を味わいながら読み進めることができました。
ジャンルが歴史ものということで構えて読み始めましたが、その内容は非常に読みやすくまとめられています。
未知に触れて考え方が変わっていく主人公。大望を抱えながらそれをおくびにも出さず、静かに燃える親友。2人の何気ない日常と心境の変化が丁寧に描かれていて、待ち受けていたクライマックスの納得感は素晴らしいものでした。
また、故事を元にしているせいか「人の世」というきちんとしたテーマ性が見られて、小さな漁村から凄惨な出来事の果を経て。海、やがては世界へとスケールアップしていく様は、なるほど、ある意味でお隣の大国らしさが出ているような気がしてとても新鮮でした。後半、親友が語る大望は傲岸不遜そのもので、だからこそ夢がある。結局は彼が言ったその言葉こそが、本当の意味で歴史が始まった瞬間だったんでしょうね。エンディングも個人的にはお気に入りでした。
人間、龍、そして神。3者が表面上は平穏に暮らしていた日々に一石が投じられたとき、歴史はようやく動き出す。騒乱の果てに龍の主人公、また、人間の親友が見る世界とは…。2万字に収められた“始まりの物語”。必見です!