敖霜枝
白玖黎
壱
――やってしまった。
荒い息を吐いた
小脇に抱えた名も知らぬ少年の体が、ぬるりと不自然にすべって腕から離れそうになる。
少年が血を流しているのだとわかったのは、いつもの濃い海水の味に
己とほとんど同じ大きさの少年を抱え直しながら、ただまっすぐ水晶宮を目指して突っ切る。
宮殿に戻ったら、急いでこの人間を
冷静に考えながらも、敖丙の心の底では
もしも誰かに見られてしまえば。
もしも人間に、
そこまで考えて敖丙は
もう
この小さな生物を見捨てておけなかった時点で。
そして、沈みゆく少年の手を取ったその瞬間から、引き返すことなどできなくなっていた。
海水に
もう後戻りはできない。
そう自分に言い聞かせながら、敖丙は暗闇のなか水晶宮の
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