UFOに非ず!

   九

 

 八月二十一日。私はゆりをUFO探索に誘った。


 理由は二つ、夏休み中の探索でUFOを見つけられなかったことと、ずっとゆりに誘われて探索をやっていたからだ。許可や場所の選定で任せっきりのゆりを少しでも労いたかった。


 UFOの目撃情報や現れやすい条件を色々調べ、そこが立ち入り禁止ではないかも確認し、リストアップした。そして選ばれた場所は、結局普段の探索でよく行く臨海公園だった。


 待ち合わせを噴水前に設定し、行程を計画してからゆりに電話をかける。


「もしもし、ゆり今大丈夫?」


「モーマンタイ。何か用?」


 私は少し緊張していた。ゆりに自分から電話をかけるのは、もしかしたら初めてかもしれない。


「えっとね、明日ゆりとUFO探索しに行きたいんだけど、良い……?」


 電話越しにゆりが驚いているのが分かった。


「全然OK!!しきから誘ってくれるとかあたし嬉しい!」


 そう直球で嬉しいとか言われると、照れてしまう。


 私は待ち合わせ場所や時間、そして服装も伝えた。もちろんつなぎだ。


「じゃ、おやすみ」

「うん、おやすみ」


 ベッドに寝転ぶと、徐々に胸が高鳴ってきた。でも明日は大事な日。確実に起きるため、一分刻みでアラームをセットした。

 


 計画通り……


 私は集合時間の、なんと一時間前に起きて優雅に準備していた。遅刻魔の私にはあり得ない話である。


 玄関のドアを開けて空をしばし眺める。雲も飛行機も鳥もいない真っ青な晴天が一面に広がっていた。




   十


 私は雨で濡れた地面を見つめていた。

なんで天気予報をしっかり見てこなかったんだろう、なんでもっと入念に下調べしなかったんだろう。

後悔があふれる。

ゆりならこんなヘマはしない。

事前に雨予報が出ていたらいくら綿密に計画した探索でも即中止する。

私は『嬉しい』を裏切ったような気がして胸が痛かった。


 午後三時に私たちは来たのに、時計の針はすでに午後六時を指していた。この時期なら普段は明るいが、低く立ち込めている真っ黒な雲のせいで辺りは夜のように暗かった。


 ゆりは私の隣で座ってじっとしていた。会話は無い。ただただ雨が地面を打ち付ける音だけが二人の間には流れた。


「しき、そんな泣きそうな顔しないでよ」静寂を破ったのはゆりだった。


 暖かい声だ。さっきまで堰き止めていたものが溢れ出るように、私は泣き出してしまった。


「ほら、あたしを見る」


 涙ではっきりしない視界にゆりが写る。

 ゆりは微笑んで私の頭を撫でた。


「明日でも明後日でも良いよ。今日はもう遅いし、帰ろ?」


「うん…………え?」


 立ちあがろうとして顔を上げたとき、私の目はあり得ないものを捉えた。


 白く輝く三日月型の物体が雨雲の中を複数で編隊飛行している。数は不明。大きさは旅客機よりはるかに大きい。ゆっくり、ゆっくり、北の方角に移動していた。



 それは、UFOだった。



「ゆりゆりゆりゆり!!!あれあれあれあれあれ!!!!」私は腕をバタバタさせて必死にUFOを指し示していた。


「ちょっと、びっくりしたじゃない……なになに…………えぇっ!!!??!!!?」


 私とゆりは互いに顔を合わせて抱き合い、叫んだ。



「「ユーーーーーフォーーーーー!!」」



「あたし写真撮るからしきスケッチして!!あああとデータ!!正確にね!!!」


「任された!!」


 涙はとっくのとうに引っ込んでいた。興奮がすごすぎてまじあれだった。えっと、そのエモい的な感じで語彙力やばくてやばかった。


 私はカバンからスケッチブックと筆箱を取り出し、描き始めた。


 右上に日付と時刻、場所を記入。観察者も忘れない。


 UFOとスケッチブックを交互に見る。


 見る。


 描く。


 見る。


 描く。


 ゆりは持参した数種のカメラでデジタル、アナログ両方の写真を撮っていた。



 私たちは突然現れたUFO相手に夢中で記録を取りまくった。UFOが完全に雨雲の中に消えてしまうと、私たちは偉業を成し遂げたような達成感に包まれ、降りしきる雨の中再度抱き合った。


「やった!やったよしき!!」


 ゆりは腕の力を強めた。


「やった……!ほんとにいたんだね……!」


 私も応じてさらに強く抱きしめた。


 ゆりの鼓動が私の心臓に伝わって、二つの心臓は共鳴していた。

目の前にゆりの顔がある。

私はゆりの目をじっと見つめた。

もうあの日みたいに逸らすことはない。



 ただひたすらに、このままゆりを放したくなかった。



「ゆり」


「なに?」


 すべてを受け入れる用意はできているようだった。


 私は目を閉じて顔を近づけた。


 雨で濡れた私たちの唇が合わさる。柔らかくて、温かかった。



 私たちは十分ほどそうしていたが、やがて顔を離した。


 それでも互いに体を離すつもりはなかった。


 ゆりの全てが愛おしくて、私は湧き上がる感情を抑えきれずに告白した。


「愛してる」


 私たちはまたキスした。

 

 

 

 

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日常に非ず! 西住 晴日 @NISHIZUMI_0325

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