教えてよ、夜の辿り着く先を


 偽教授さんならではの硬質さとライトさを保った文体とか、歴史や民俗的な知識の散りばめ方とか魅力は沢山あるんですが、ウェレダの人となりが本作ではとくに好きです。
 初読のときは、偽教授さんがウェレダを書くにあたってモデルにされたキャラクターをTwitterで拝見したりしていて、ウェレダよりティトゥスの人物造形に注目して読んでいたんですが、あ、これウェレダめっちゃ良い子だ……と途中から惹かれていきました。

 多分ウェレダ、根っからめちゃくちゃ良い人なんですよね、自分に襲いかかったティトゥスを庇うために、あんな大立ち回りをしてしまうんですから。
 ゲルマン人の宗教観道徳観込みの行動なのかもしれませんが、隠蔽するでもなく立ち向かって、ティトゥスの代わりに自ら裁きを受けようとするところとかも。
 最初はやたら友好的なゲルマン人だなぁと思ってぼんやり読んでいたんですが、終盤まで読んでそんな感想を抱きました。

「おれの実家は解放奴隷で、たいした家柄ではないが金だけは持っていた。おかげでおれは幸運である上に、馬術というものができる。」
 ここめちゃくちゃ好きです。
 最後“彼”が「満面の笑みを浮かべて」ああいう風に答えるのも、ティトゥスの一人称では語られなかった部分を感じさせて魅力的です。
 とてもいいラストでした。

 素敵な作品をありがとうございます。