第2話 孫への「プレゼント」【前編】

 今日も空は快晴。

 レンガ造りの大きめの建物には多くの人が出入りしている。天空機関車の駅である。


 そんな場所にウィズはいた。というのも、ここが一番お客さんが来る可能性が高いからである。乗り遅れや終電などといった理由でタクシーにも少しだけ人が流れてくるのだ。


 とはいえずっと毎日同じ駅にいるのも気が滅入る。そのためウィズは、一日ごとに違う駅でお客さんを待っている。今日は王都の中心部からは少し離れた駅だ。


 駅前の屋根のあるところで朝からお客さんを待っていたが、時間はもうお昼過ぎ。宿の女将に好意で作ってもらったおにぎりで腹を満たすも、さすがに絨毯の上で待ち続けるのも大変になってきていた。


「機関車に乗り遅れてしまったんだ。乗せてもらえないかね」


 そんな時、一人の男性が走ってやってきた。体格が大きく、白のワイシャツに黒いズボンを着た白髪のイケオジだった。ワイシャツの前のボタンをいくつか開けており、中から筋肉質な肌が見えていた。


「もちろんです! どうぞ」


 男性はタクシーに乗り込み、ドカッとあぐらをかいて絨毯の後ろに座る。


「どちらまで?」

「街の中心部のデパートまでだ」

「承知しました。ここからだと20分ぐらいですかね。それでも大丈夫ですか」

「ああ、それぐらいなら大丈夫だ」

「わかりました。では出発しますよ」


 ウィズは片足を立ててしゃがんだ体勢になり、彼の声とともにゆっくりと絨毯が上空に浮かび上がる。周囲の人の目線も一緒に空へと向かった。


「一応、落ちないとは思いますけど、もし怖いようでしたら僕につかまってくださいね」

「はは、心配いらないさ。落ちてもなんとかなるだろうしな」

「そ、そうですか。では行きますよ」

 そういうと、絨毯は街の中心部の方へ飛び始めた。



 ~



「おお、良い景色だ!やはり機関車と違って壁がない分よく見渡せる。しかし、こうしてみると王城はやはり大きいな」


 遠くには異世界からの技術が持ち込まれた影響で開発された地区、ビル街も見える。

 大きいものだと40階建てのものもあるらしい。しかし、それを超える大きさなのが、ウィズたちの左手に見える王城である。ビル街ができる遙か昔に作られたあの石造りの建物は、170mもの高さであった。


「しかし、久しぶりだな。こうして絨毯タクシーに乗るのは。」

「そうなんですか?」


 ウィズは周囲に気を配りながら問いかける。


「ああ、前はよく利用してたもんだ」

「へえ」

「これでも昔はダンジョンの探索者やっていたからな。ダンジョンに行くまで重宝してたものよ」


 チキュウには無かったそうだが、この世界にはダンジョンというものがあり、そこで出たものを換金することで生計を立てている人達は探索者と呼ばれている。


「それでそんなに体格が良いんですね」

「現役のころはこんなもんじゃなかったさ。今じゃだいぶ脂肪がついちまったよ」

「十分すごいですよ。僕なんて全然筋肉ないので」


 ウィズは少し背が高いことを除けば、良くも悪くも標準的な体型である。


「お前さん若いんだからもっと鍛えにゃだめだぞ。歳はいくつだ?」

「23です」

「おお、うちの孫とそこまで変わらないじゃないか」

「お孫さんがいるんですか?」


 男性の髪こそ白髪ではあるが、とても孫がいるような年齢には見えない。


「ああ、そうだ」

「あの、失礼ですけどおいくつなんですか?」

「ふむ、いくつだと思う」


 この手の質問はやっかいだ。言った年齢よりも若ければ、もちろん失礼。かといって低すぎる年齢を言っても、お世辞と捉えられてしまう。

 見たところ、男性の年齢は50後半といったところだろうか。ウィズは52ぐらいですかね、と返した。


「ハハハ、さすがにお世辞が過ぎるぞ。今年で69になる」

「ええっ、本当ですか?69に見えないです」

「ちなみに孫は今日で18だ」

「え゙」

「ハハハハハハ」


 ――嘘でしょ・・・。

 驚きで表情が固まる 


「そうそう、今日もその孫のことで用事があってな」

「というと?」

「今日の夜に孫の誕生日会があってな。そのためのプレゼントを買いに行くところなのだ」

「そうなんですね。毎年買いに行かれてるんですか?」

「まあな、ただいつもは執事達と一緒に山のようにプレゼントを買いにいってたんだが、去年、次はちゃんと考えて、一個にしてくれと孫に言われてな」


 執事達?山のように?と様々な疑問がウィズの頭の中で渦巻く。


「それで一個なら何人も執事はいらないと思ってな。今日は一人で買いに来たというわけだ」

「ちなみに何をプレゼントしていたんですか」

「・・・・・・まあ、色々だ。去年までは目についたものを手当たり次第に買っていたからな」

「なるほど。・・・・・・確かにプレゼントはあんまり多すぎてもお孫さんは困るかもしれませんね」


 このお客さん、かなり偉い人なのかもという動揺でウィズの額に汗が出てくる。


「ううむ、そうなのか。できるだけたくさんあったほうが喜ぶかと思ったんだがな。君はどう思う?」

「そうですね。僕もプレゼントをもらうなら、たくさんのものをもらうよりも自分の事を考えて選んでくれたプレゼント一つの方がうれしいですかね」


 ウィズは率直な自分の意見を伝えた。



「そうなのか、ふむ。

 ・・・・・・じゃあお前さん、ちょっと手伝ってくれ」

「はい?」

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