夜・その二 廃校にて肝試し

 裏口に戻って守屋と埜崎の二人と合流。それから、まだ戻らない仲野と堀を探そうという話になった。

「本当に、二人ともどこまで行っちゃったの?」

「早く帰りたい…」

 僕たちが向かった職員室とは反対の方向へ行ったはず。右手側に一年生の教室が並んでいる。一つ一つ、ドアが開かないか確かめながら進んでいく。教室には全て鍵がかかっていて開かない。廊下の一番奥まで進むと、左手には二階へ続く階段と、男女のトイレがある。二階まで行ったのだろうか、そんな話をしていると、

「ねえ、何か音がしない?」

 女子トイレを確認していた守屋の声が響いた。入っていいものか一瞬迷ったが、学校内には僕たちしかいないし、そもそも今トイレは使えない。全員で女子トイレの中を覗く。

「これ、仲野たちの…」

「二人はどうした?」

 トイレの隅に落ちていた、点けっ放しの懐中電灯を拾い上げる。ピチョン、ピチョン…どこかで水の滴る音がする。

「水は出ないって、先生が言ってたよね」

「雨漏りかな?」

 懐中電灯の小さな光ではよく見えない。だけどトイレの床が、水溜りのようになっているのが分かった。水滴は上の方から落ちてきているらしい。懐中電灯をゆっくり、上の方へ向ける。

「キャー!」

「うわっ!」

 細い釣り糸のようなもので天井からぶら下げられているのは、仲野と堀だ。青白い顔と虚ろな瞳で、恨めしげにこっちを見ている。

「死んでる…」

「どうしてっ」


【死亡】

(女子)仲野 堀



「もうィヤぁ…」

「早く帰ろう!」

「ああ、そうだな…警察に届けなくちゃ…」

「か、鍵っ。鍵が無くちゃ出られないよ」

「そうだ、土井先生が鍵を持っていたはず」

「職員室に戻ろう!」

 足早に職員室へ向かう。全員無言。誰一人、口を開こうとしない。


「無いっ!」

「ポケットは?」

「探した!」

「どこかに落ちてないの?」

「灯りで照らしてくれ」

 しかし、いくら探しても、先生が持っていた鍵束は見付からなかった。

「職員室に来る前に廊下で落としたとか?」

「とにかく探そう」

「手分けする?」

「ああ、そうだな」

「懐中電灯は二つあるから、二人一組になろう。守屋、埜崎を頼む。裏口の辺りにいてくれ。山嵜は辺見と、廊下の先だ。山元、行こう。僕たちは二階を探す」

「分かった」

「オッケー。こんな所、早く出ようぜ!」

 ジャラジャラ…ねえここだよ。気付いてよ…すぐ後ろにいるよ…


「階段ジャンプ、楽しいね…もう一回…」



「あった?」

「いや、全然見つからねえ」

「原田君たちは?」

「二階を見て来るって言ったけど…遅いね」

「なあ、正面の入り口から出られないかな?」

 ガタイの良い山嵜が体当たりをしたり、蹴っ飛ばしても、ドカンドカンと大きな物音がするだけで、ビクともしない。もちろん裏の鉄扉もだ。

「ダメだ…鍵を探すしかない」

「私たちも二階行った方が良くない?」

「だな!」

 階段を登り、二階へ向かおうとした僕たち。

「キャー!」

 踊り場まで行った所で、守屋が大声を上げた。階段を転げ落ちたのか、首も手足もバラバラの方向を向いた二つの死体。確かめるまでもなく、死んでいる。原田と山元だった。


【死亡】

(男子)原田 山元


【生存】

(女子)埜崎 守屋

(男子)辺見 山嵜



「なあ、おかしくないか?」

「おかしい?」

「そうだ。だって、この学校には俺たちしかいないはずだろ」

「うん」

「じゃあ、これをやったのは誰だ?」

「あっ…」

「先生だけなら、もしかしたら事故かも知れない。足を滑らせたとかさ。でも、こんなの絶対おかしい!」

「そう…ね…」

「この学校の中に、殺人鬼がいる!」

 さすが辺見は真面目で冷静で頭が回る。その言葉を聞いて、恐怖に震える女子二人。

「ここにいたら危険だ。さっき、職員室の奥の用具室が空いていたんだ。朝まで立て籠もろう」


 狭い用具室に入ると、埜崎がロウソクに火を灯した。ロウソクを中心に、輪になって座る。

「なあ、俺たちって何人だった?」

「え?」

「何人で来たかって聞いてるんだよ!」

「八人でしょ?」

「先生を含めて九人だよな?」

「そうだけど、それが何か?」

「なあ、今、ここに何人いる?」

「え?」

「一、二、三、四…五人いないか?」

「ん?」

「先生を含めて九人だったのに、五人死んで、五人残ってる。誰だ…誰が…」

 ドロッとした液体の感触。トントントン。肉を刻もう。先生のように上手に切れないな…


「あなた誰よっ!?」

 うーん…肉を裂く感触。いいねぇ…切った肉をロウソクの火で炙れば、楽しく美味しいバーベキューだ…


「うわぁ…こっち来んな!」

 駆け出す山嵜。今度は追いかけっこだ…僕もジャラジャラと音を立てながら追う。


「みんなで遊ぶのって、楽しいね…」


【死亡】

(女子)守屋

(男子)辺見 山嵜



 あ~あ、動かなくなっちゃった。そうだ、土井先生の両親の所にも行かなきゃ…誰か僕をここから連れ出してよ…

 用具室に戻ると、埜崎が泣きながら震えていた。僕の最後の友達…

「ィヤぁ…来ないで…」

「ウフフ…」

「お願い…助けて…」


「何して遊ぼっか…」

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みんなで遊ぶのって、楽しいね・・・。 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

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