10:エピローグ。僕たちはいつだって真剣だ。(終)

 ゲームが終了し、僕の完全敗北で決着がついた放課後の部室『数学演習室』にて。


 僕ら部員三人は、仲良く机をくっつけ合い、真ん中にはお菓子──『たけのこの里』と『きのこの山』を広げてまったりと駄弁っていた。争いの種はこの二種のお菓子にあった。


「結局のところ、『たけのこの里』の方が人気があるってわけですよ。二倍ですよ二倍」


 お菓子を口に運びながら、たけのこ派のチロは改めて主張する。


「二倍つったって、んなもん一人対二人だろ」


 この部唯一の『きのこ派』──僕は、誤解を招くその主張に訂正を加える。二倍ではない、一人の差だ。


「でも世間一般的にも、『たけのこ派』の方が多いらしいですよ」


 チロと同じく、たけのこ派の鈴も『たけのこの里』を頬張りながら意見する。確かに噂によると、この部内にかかわらず、全国的に見ても『きのこの山』は少数派らしい。誠に悔しい。


「わかってるよ。もう言い争ったりはしない」

「いやいや、何言ってるんですか。言い争いを止めるためにゲームしてたんじゃないですよ。負けた人が相手の傘下に入るんですよ」

「なにッ──!」

「だってそうじゃないですか。何のためにゲームしてたんですか」

「いやでも……」

「先輩──、先輩は負けたんですよ」


 鈴にまで言われてしまった。


「わかった……。僕もこれからはたけのこ派を主張する」

「ありがとうございます♡」

「うぅぅ……」


 本当に全国のきのこ派の方には申し訳ない。僕、桐早木とうさきすずめはたけのこ派に鞍替えしました。


 ──なんて嘘である。


 口ではああ言った。だが──心の中ではきのこ派だッ!

 僕はきのこ派であり続ける。何人足りとも心の中までは変えられないのだ。そして僕は、全国の『きのこの山派』の人のためにも、また『たけのこの里派』の人に知ってもらうべく。悟られないように“心の中”で力説する。『きのこの山』の素晴らしさを──。


 まず一つは、その形。皆はお菓子はどうやって食べるだろうか? 当然ながら手で食べるはずだ。まさか箸を使って食べている者はいないだろう。ならばその手で、その“指で”一体お菓子のどこをつかむのか。答えは明白だ。そう──クラッカーの部分だ。

 チョコの部分は、べたつくのではないかという心理的負荷を伴い、触れるという行為自体が避けられがちだ。となれば 『たけのこの里 』と『きのこの山』どちらがより持ちやすいかなど一目瞭然。そう、──『きのこの山』だ。持ちやすいから食べやすい。そうならないかね?

 見た目に関しても、どちらかといえば『きのこの山』の方が可愛らしいとは思わないかい?  『たけのこの里 』をけなすつもりは毛頭ないが、あのずんぐりむっくりした形に比べれば、きのこの形の方が実に面白いではないか。チロなんかはあの形をチ〇コと関連づけ、卑猥ひわいだなんだと妄想していたが、それはなんでも過剰反応だろう。果たして真のスケベは誰なのか……? 


 続いて二つ目のアピールポイントは、原材料。お菓子でもなんでもそうだが、食べ物に関して、とある事情を抱えている人間は多い。その事情とはズバリ──「アレルギー」。


 食品表示法によって定められているアレルギー表示だが、 『たけのこの里 』と『きのこの山』で一つだけ、決定的な違いがある。 『たけのこの里 』にあって、『きのこの山』には無いものがある。表示が義務付けられている特定原材料七品目のうちの一つ──“卵”──が、記載されていない。


 すなわち! 卵アレルギーを持つ人にも『きのこの山』は食べられるのである!

 アレルギーは一歩間違えれば死に至るほど、気を使わなければならないもの。食品アレルギーを持っていない人間にはわからないだろうが、これがかなりの気苦労を伴うのだ。特に菓子類には卵を使ったものは多い。それを気にせず食べられる『きのこの山』は素晴らしいお菓子と言えよう!


 そして三つ目。あの大人気アイドルグループあらしの松潤こと、松本潤さんはなんと、きのこ派なのです。


 以上、『きのこの山』の素晴らしさでした。



「どうですか、たけのこの味は」


 ニンマリとした顔でチロが僕に聞いてくる。僕は一つ『たけのこの里』をつまんで口に運ぶ。


「そんなの前から知ってるよ」

「違いますよー。寝返ったあとに食べた味のことですよ」


 なんて嫌なことを聞いてくるんだ。


「お、おいしいよ……」

「もう、素直じゃないですね」


 うふふ、とチロは今日一の笑顔を見せた。まったく、この後輩はこういう時にこんな笑顔を見せるのだから……。


 そんな笑顔を見ていると僕はしみじみ思うのだ。この時間が何よりも愛おしい、と。頭使ってゲームして、愉快な後輩二人と仲良く(仲良く?)お菓子をいただく。こんな時間がいつまでも続けばいいと思っている。微笑ましいよ。そんなこと考えていると、さっきまでの戦いが実に不毛だった気がしてくる。


『きのこの山』と 『たけのこの里 』。


 どちらがお菓子として優れているかなんて、そんなのどうでも良いではないか。双方、どちらにも良い箇所と、悪い箇所があり、完璧ではないのだ。それは人間と同じさ。みんな違ってみんな良い。それで良いじゃないか。なぜ争うんだ。仲良くやろうよ。ラブ&ピースだよ。それなのに――。


「「「あっ」」」


 最後の一つを手に取った僕ら三人は、


「どうしますか?」

「そりゃあまあ――」

「ですね」


 互いに顔を見やり、そして――。


「「「じゃんけんぽんッ!」」」


 ともに笑い合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

放課後×頭脳戦。 絢郷水沙 @ayasato-mizusa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画