ゲーミング発光する骨格標本
一華凛≒フェヌグリーク
ゲーミング発光する骨格標本
銀杏並木を走っている。
葉が肩をかすめて落ちていく。並木の先が夜闇に溶けて、どこまで続くか分からない。走るたびに、先が新しく作られている気すらする。
並木の右手側。白レンガの舗装の向こうは地平まで稲田が続き、その先に墨絵のような堤防がかすむ。堤防の向こうは時々、ピカピカと七色に輝いた。
音のない夜に似合わない、目に痛いゲーミング発光。走っても走っても後ろから追ってくる色に、よく似ている。
通学路は、こんな地形じゃなかったと思う。曲がり角はもっとあったはずだし、夜中でも車がたくさん通っているはずだ。右に収穫の終わった稲田だけのはずがない。左には住宅街の壁しか見えないなんてあるはずがない。
目はカラカラに渇いていて、汗だけ次々流れていく。開きっぱなしの口に汗が入ってヒグ、と喉が鳴る。期末試験残り10分時点で、答えが一つズレていると気がついた時くらい、腹も鼻も痛い。
もうずっと一本道を走っている。後ろから来る七色との距離は近くも遠くもならない。堤防の光だけ、どんどん強くなっている。
家の壁はそっぽを向いて、窓の一つも見当たらない。堤防にぽつぽつ、豆のような光が群がっている。ゲーミング発光している白っぽいなにか。変な音が喉からした。
―――もうすぐ家だ。
―――家までいけば、なんとかなるはずだ。
夜闇が少し薄くなる。
肩も足も震えたまま、家に続く角を疑問も持たずに左へ曲がる。見慣れた赤いマンションと、いつも犬の鳴いている家の隣を通る。足が止まる。
目に痛い七色にガチャガチャ光る骨格標本たちが、家に群がっている。パレードかゲームセンターみたいに光っている。窓にも扉にも表札にも物干し竿にも車にもポストにも、家の隣の電信柱にもへばりついて四つん這いで、家の壁を這っている。
逃げたい。
逃げ切りたいのに、どこにも行けない。
後ろの光は影を強く前に伸ばすほど近い。
カチカチ、歯か骨かが激しく鳴った。
ゲーミング発光する骨格標本 一華凛≒フェヌグリーク @suzumegi
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