第6話 金の亡者

廃墟の中に入る。窓ガラスが割れていて、自由に中に入ることができる。

「創樹生成・光帯月下美人(ライトベルト・ゲッカビジン)」

伝説の光る月下美人。生み出すのは簡単ではないが、いい宿でぐっすり眠れたおかげか、はたまた勇者パーティーを追い出されてから早3か月、ようやく将来への道筋が光り輝くことへの安堵からか、とにかく調子の良い今の僕ならできないものではない。


中は鉄の錆びたような臭いや、カビだろうか、容赦なく嗅覚に不快感を与えて来る。控えめに言って、くさい。無理。

一歩進むごとに、じゃり、じゃり、という音が響く。足が吸い込まれるような感覚がして、足取りは重い。砂だ。さすが砂漠の町。廃墟の中は砂だらけだった。


「いたっ!」

何かに足をぶつけた。なんだこれ…目線を下に落とし、光る月下美人で照らすとそこには――

「ピーーじゃん、これ、え、ほんとにピーーのピーー?」

※自主規制

とにかくここはやばいかもしれない。「本物」が出てもおかしくない。


鉄柱がひび割れ、中から鉄骨が浮かんでいる。その後ろを見れば――

「階段かぁ」

外から見た限り5階建てではあるみたいだけど。地下もあるようだ。

「▷2階へ進む

 ▷地下へ進む」

プレイヤーの選択で、ストーリーが変わります。






選んだ方に進むと、貼り紙がされていた。

「これって古代ゴダイ文字?」

ビンボー王国宮廷で習った記憶があるような、ないような…。

「ええっと…?お金は…なんだ…?同意?」

うん、読めない。進もう。


その後も進み続け、張り紙にも何度も遭遇したが、結局読めないまま、ついに階段のない階までたどり着いた。ここが果てである。階段の終わりは、そのまま部屋の中央へとつながっていた。この部屋は、丸い。円形だ。

「はて…このボタンはいったい?」

下になにやら文字が書いてあるが、例によって読めない。

「ま、押すしかないでしょ」

ポチっとな。


「パンパカパ~ン!おめでと~う」

杖を構える。亡霊が出るって言っていたのに、とんでもない。人間じゃないか。

ボタンを押すと同時に、隠し扉が開き、そこから人間らしき生物が歩み出てきた。

「いやぁ~まさ~か、ここまで来てぇ~、このボタンを押してくれ~るとは~!」

独特の話し方をする。が、独特なのは、その服装だ。

大きなとんがり帽。もうこれだけで、魔王の手下と判断できる。本当は刺繍を確認したいところだが、もう少し距離がある。

漆黒のマントに身を包んでいるが、マントの合わせ目から中が見える。鍛えられた大胸筋、腹筋、そして立派なモノ…つまり、裸だ。アニメ化されたときは白パンツの着用をお願いする。

「やだ…来ないで…変態///」

抵抗むなしく、10mほどの距離まで歩いてきた。ふらふらふらふら、歩いてきた。

帽子には間違いなく、魔王軍の刺繍が確認できた。

顔がよく見える。面長だが、キリッとした目つきに、スッキリした鼻立ち。唇も、妖艶な紅で、すなわち、イケメン。てか顔ちっちぇーな、この野郎。

「よう~こそ、ジャパパパークへ!一緒にどった~んばったんんんん、大騒ぎ~」

ツッコミどころが多すぎて、まずはどこから突っ込めばいいのやら…。

「では、入館料をいただきます。1020万キンです」

真面目な口調で話したと思えば、

「は?1020万?」

ビンボー王国の国王の年収の倍である。あの王様、なんだかんだ切り詰めてたからな…。

「あれれ?妙だな…これは、、、」

なぜかペロッと舌なめずりをして、

「不法侵入!あーーー、お客様、困ります、あーーー、お客様~~~!!!」

何が起きてるかさっぱり分からないんだけど、なんか勝手に劇始めてるんだけど、どうすればいい?

「でも、大丈夫!君は労働ができるフレンドなんだね!!すご~い!」

なんかでもこれ流れやばくない?

「では、特~別ルームへGo!案内!」

変態が出てきた扉から、1人、2人、3人、…n人出てくる。

「Welcome!ようこそ~ジャパパパークへ!これ~から、いっしょに働くぅうう、仲間、デス!」

首をクイッと倒して盛大に「デス」と語尾を強める。

両手を広げて宣言をしていたが、どうやらこいつの両腕は機械のようだ。

と、目を一瞬奪われた間に、50人近くの、目の輝きを失い、まるでゾンビのようにボロボロの服を着た者たちが僕の周りを見事包囲している。

その中でも一番身なりのきれいなものが、前へ出てくる。

「改めまして、こちらはジャパパパークです。様々な生物をご覧いただくことができます。ただし、入館料は1020万キンです。そのあたりは、貼り紙をご覧になりましたよね?」

「読めませんでした」

「あー、大人になってそういうのは通用しないんですよ」

もしかしてこれ、契約書関係での2回目の危機?

「改めて」

わざとらしく咳払いをしてから、

「入場料を払うことに同意するものは右へ。これが第一の貼り紙でした。お金が払えない者は、労働によって支払うことに同意する。その者は、左へ。その後は、労働条件を書き並べさせていただきました」

さすがにクーリングオフが効くでしょ。

「このボタンの下には、貼り紙の全ての項目に同意したものはボタンを押してください。館長自らお出迎えさせていただきます、と書かれていますよね」

「クーリングオフで」

「困ります!この国には、クーリングオフ制度など存在しないのです!」

「ビンボー王国ですらあったのに!?消費者庁はいったい…」

「何の話ですか?とにかく、同意してくれたのですから、もう選択肢はありません」

「おわ~かり~いただけまし~~~たか?あなたは~労働力を~ここで発揮する~私たちは~衣食住を提供する~Win-Winデス!」

「首を傾けるとなんか著作権に引っかかりそうだからやめて」

「私たちの愛に、愛に愛に報いい~るこ~とができる~なんて!す!ば!らC!」

「そのセリフ、アニメ化のときは削除ね」

そうはいっても、本当にこれはまずい。観光スポットと書かれていたから来てみたら、とんでもない違法マフィア組織だった件。

逃げるためには、戻って階段を進むしかない。だんだん外も明るくなってくる。逃亡自体は、無理じゃない。問題は、この数の「人間」をどうするか。殺さずに切り抜ける方法を考えなくては。何より、こいつは魔王軍の者で間違いない。ここで倒したい。

「創樹生成・苧麻螺旋(カラムシ・ラセン)」

カラムシの茎を編み上げ、ロープのように強固に編み上げる。人間たちを可能な限り傷付けず、ここは切り抜けたい。かといって数が数だ。足だけを縛り、その場から動けなくする。

「うみゃみゃみゃみゃ!」

という僕の想定は、当然甘かった。変態の魔術で、みな強化される。カラムシの強固な茎が引きちぎられる。

「残念!無念!いと!おかし!!!」

なんだあれは?呪いのお札?目の前に10枚以上、顕現させている。

「これな~る~は、こ~の世のすべ~ての恨み♪」

楽しそう…。避けるためにはどうすれ…うぅ!

「ガブッ」

なんだ、意識が朦朧とする。かまれた、背中を、ゾンビみたいな人間に。ただ、それだけなのに、一瞬にしてめまいがする。平衡感覚が失われる。だめだ、これがのろいか?でもお札は目の前で…

「契約!成立!ささ、お眠りく~ださ~い。あら…やだ、あな~た、別嬪さんね!」

気持ち悪い…

「それは~生かし~て、お~けない!うっふ!」

ああ、これはほんとに――

「そう~いえば、自己紹介がま~だ、だね!我が名はクランベリー・ベルフェゴール・カスティーリア。気軽~にクランちゃん、と~呼んでね!呼~ん~だらだらだら~こ・ろ・す!」

最後まで聞き終わるか否か、僕は意識を失った。


******

「朝のぞいてみたらいないっピ」

場所は第二皇女一行が泊まっている宿場。ときは午前8時。ヤウロペ連邦では、時間という概念があり、時計は一般的に持ち運ばれている。一行は、ヤウロペ連邦へ向けて進む途中である。朝ごはんにサンドウィッチをいただいたが、マネールがなかなか起きてこないのでのぞきに行くと、いなかったということである。

「そういうこと、なのかしらね…」

一行とマネールの出会いは、まだ2日である。いなくなってしまったとして、それは――

「仕方のないことだったのかしらね…」

「では、このまま進むでござるか」

「そうじゃのう…マネールには助けてもらった。おかげでこれも手に入った。盗賊に奪われることもなかったのじゃ。じゃが…もうお礼は十分したからのう。ヤウロペ連邦まではあと3時間ほどで着いてしまう。わしらだけでもいいじゃろ」

「わ、わかんないっピ」

「待ってくれ」

「おお?珍しいのう」

「姫様、マネールのこと、ご存知ですよね」

「なんと」

「そうかのう?」

「っピ?」

「あら、あなたに気付かれるとは…そうよ、実はマネールとは――」


第二皇女――プアーカの口から、騎士たちに、驚きの事実が伝えられた。

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勇者パーティーを追放されたので異国に亡命したら思わぬ才能が開花して魔王を倒しちゃう話~世の中金だよな~ 咲花美優 @somyuponn

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