愛せない子は愛されない子#0

 恭子様の他界からもう1年。時が過ぎる速さを感じながらお墓に線香をやる。


「いまだに私は前を向けていません。お許しください。」

 あの日、恭子様に守られてからずっとそのトラウマと同時に過去を引きずっていた。


 あの後、恭子様の父の権力で自殺と事実をもみ消されたものの、誰かの告発によって殺害がばれ、あの人は今牢獄にいる。


 それ以外に変わったことといえば大手の会社の社長が捕まったことで日本の株価が暴落した事や恭子様のお母様。玲奈様が目を覚ましたこと。私がメイド服に袖を通すことがなくなったことぐらいだった。


 緑の線香が細い煙を上げる。その煙は天へと高く高く登ってゆく。空を見上げると静かな青い空が広がっていた。


 お供物のクッキーはカラスに食べられるかもしれないので、持って帰ることにした。


 まだ新しく、太陽の光をいっぱいに反射し光り輝く黒い墓は恭子様の冷たさと悲しさを感じさせた。


「すみません、お姉さん。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 急に男の子に話しかけられる。礼儀正しいその男の子は一輪の黄色い花を両手で大事持っていた。


「塩崎 理央ですが。どうかしました?」

「あぁ、いえ、そうでしたか。山梨さんのお墓に花を添えようかなと思いまして。」

 どんな関係かは分からなかったが学校のクラスメイトだろうかな?と考えた。それにしては幼い気もしたが別に墓参りに来る人が多いのはいいことなので放っておく。


 その少年は右側の筒に花を添えた後、黒い髪が垂れるほどに深々としたお礼をして、前を向いた。


 私はそれを見て、どこか嬉しくなった。帰りは何か食べて帰ろうかと歩き出す。私の家には秋田くん。と言う人からもらった新品のスポーツキャップがある。


 秋田くんも恭子様が死んだ冬休みにお亡くなりになったと学校の小林先生?から聞いた。


 なぜスポーツキャップなのか、私ならわかる気がした。恭子様には夏まで、それからも生きて欲しかったのだろう。


 私はそんなことを勝手に思いながらその場を去る。


「恭子様、天国でもどうかお幸せに。」


 ところであの少年は誰だったのか。振り返るともういない。私は冷たい冬の空の下、もう一度前を向いて歩き出した。



 

※愛せない子は愛されない子  制作予定。

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死にたい子は死ねない子 赤目 @akame55194

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