本作の魅力は読者に感動を何度も与えて引き付ける要素があることです。
感動とは、心を動かすこと。たとえそれがポジティブでもネガティブでも構わないのです。もし、本作を読んで「なんだこいつ」とムカついたならもう、作者様の術中に嵌っていますね。気になって次の話をタップしてしまうでしょう。
寝取りというジャンルが既に「なんだこいつ」製造機ではありますが、本作には主人公カップルだけでなく、いくつも寝取りがあります。群像劇とタグがあるように、それぞれに感情移入してしまい、それぞれが複雑に絡み合い、それぞれの結末が気になってしまいます。シーン切り替えのタイミングも絶妙で、巧みに読者の心を動かしています。
「なんだこいつ」で読者を引き付けてからの「どのようにざまあするのか?」と期待を持たせる。そしてあの結末。ネタバレになることはここでは言えませんが、恐らくこのストーリー構成は最も読みやすい部類の「王道NTRざまあ」と言えるのではないでしょうか。
正直に言うとNTRジャンルにネガティブな偏見を持って読まず嫌いしていた私ですが、本作はまるでテレビドラマのように楽しんで読み終えることができました。
漫才かと思うほど笑える会話のテンポの良さからまずは堪能して下さい。
そして人間とは?人生とは?生き様とは?我が人生を振り返えらずにはいられななかった。こんなに感情を鷲掴みにされるとは!
深く書き込まれたキャラクターと、衝撃の展開に次ぐ展開。構成と、場面表現は絶対の安心感なので、読者の頭の中で情景と空気感が流れ出してしまうのです。
まずは読んでほしいです。
クールでナルシストな主人公とそこに紐づけれる人物達の苦悩と笑いと現実とありそうでなさそうな美容室設定が、とにかく面白い。回が進むほどに読者の感情を、あっちふりこっちふり。いつのまにか、キャラクターに強く感情移入して、あっちを応援したりこっちを応援したり。ざわざわしたい方必見!
場面転換の潔さからか、色んな感情の部屋に連れて行ってもらえます(爆笑しかり涙しかり)。先が気になってしょうがない、ただの恋愛物ではない物語の深さ。
そして読み終わってもずしりと心に残る作品です。
まずは「設定」について語りましょう。
毎日日々切磋琢磨し、しのぎを削り合う、そんな東京の美容室のトップスタイリスト「山道 春風」。
彼の設定は「既婚者という設定」という、設定。
メタい事言ってるわけじゃないっす。
マジです。
その設定が最初から最後まで、彼にとってと険しい道となります。まさに山道。
そういう道を選んじゃうのが春風くんなのでしょう。
表、にある、参り、やすい、道を、選びにくいのです。
ヒロインの潔葉さんは、ですね。
春風くんに振り回される自分に、振り回される。
そう、自分の気持ちに「最初から」「最期まで」振り回される。
光の当たる身体に隠されたモノ、それが「心」です。
自分ですらもわからない、そんな心が、です。
少しずつ行動として現れ、それに自分も気づいて素直になる。
でも素直になる事でさらに、美しく、隠された、影、が生まれます。
ナニ言ってるのか、わかりませんよね?
僕もです。
だって動いた感情の内訳なんて、自分で言えるわけないじゃあないっすか。
つーわけで、皆さん、読め。
読めば、この綺麗で険しい、不完全で完全な恋愛ストーリーがわかるから。
第一章の始めから抱腹絶倒で(特に上司が部下に評価点を付ける瞬間の描写は最高でした)、韓国ドラマ風ケンカップルのドタバタ劇かと思いきや、読み進めていくうちに、日常にひそむ男女の機微がよく描かれている深イイ話になっていく予感がしています(まだ第二章 第1話)。
独身のふりして異性に近づく「独身設定」というのはよく聞きますが、「既婚者設定」という未知のジャンルに挑戦する作家さんに期待大です!
我々の日常でも、既婚者設定とまではいかなくても、社会生活で他者に見せる用の顔というのがあると思います。作家さんの何気ない心理描写が素晴らしく、自分自身も無意識にこんな仕草や態度をしてるのかなと思い当たる節もありました。
この物語は、我々にとって意外と他人事ではない世界です。