第2話 if ~それは、Bad End~

油断していたんだ。

だから、奴の接近に気が付くのが遅れた。

さっき苦労して撒いた魂喰らいとは別の個体。作戦がうまくいって、ようやく家に帰れると安堵して、注意散漫になっていた。

知っていたのに。魂喰らいを一体撒いたところで他にも魂喰らいがいるってこと。

少しざわついた朝の喧騒と、俺の油断。唐突に曲がり角から現れた魂喰らいの手が、俺に届く距離まで迫っていた。

(しまった!)

俺を掴もうと魂喰らいが振り下ろした手をギリギリよけて、振り下ろされた手とは反対側へ走り出そうとする。だが、距離が近すぎた。

「ぐっ!!」

先ほどとは反対の手で、俺の行く手を阻む。かろうじて避けることには成功したが、体制を崩してしまった。

ベシン。

ここぞとばかりに奴の手が振り下ろされる。それをギリギリ避けて、何とか体制を立て直し逃げようとする。だが俺の行動をことごとく魂喰らいが阻む。下手に背を向ければ、捕まってしまうだろうことは直ぐにわかった。

だから、今は奴の手を避けることだけに集中する。

(チャンスを、機会を窺うんだ)

振り下ろされる手。

横から掴もうとする手。

魂喰らいも多少の知能はあるのだろう。俺を逃さず、あの手この手で捕まえようとする様は、狩をする動物のようだ。

俺は気づかれない程度に少しずつジリジリと後退しながら、捕まえようとする手を避ける。

視界は広く持つ。奴の挙動を見逃さないように。

避ける。避ける。

(今だ!)

奴の手が届くか届かないかという距離まで移動した俺は、適度に離れた二つの手を見てくるりと奴に背を向け走り出した。

ガシッ!

「えっ……」

奴の手が俺を掴んでいる。

いつもよりも伸びた手。俺は勘違いしてたんだ。

それが奴の手が届く範囲だと。

手が伸びるなんて考えてもいなかった。いつもはそれなりの距離を保っていたから、手を伸ばす必要はなかっただけ。だから見たことがなかった。だから、捕まった。つまり、接近に気が付かなかた時点ですでに詰んでいたのだ。

奴が俺を体の近くへ引き寄せた。

心なしか魂喰らいがニンマリと笑っているように見えた。もしかしたら奴は最初から俺が背を向ける瞬間を待っていたのかもしれない。

ガバリ。

魂喰らいの体が割れた。おそらく、そこが奴の口なのだろう。

(くそっ!!!)

どんなに暴れても、その手から抜け出すことが出来ない。奴は俺を持ち上げ、口らしき場所へ近づける。

(ああ、俺はまた…)

逃れられない。そのことに俺は絶望した。そして、走馬灯の様に思い出す。半年前のことを。

(もう、帰れない…)

父、母、妹の顔が浮かぶ。

(ごめん……。ごめんなさい……)

後悔、悔しさ、悲しさ。様々な感情がないまぜになる。



そして、俺は魂喰らいに喰われた。



―END―

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Three Days of Escape 天木 るい @Harmonia

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ