最終話

「フム、存外にしぶとい……」


 アークネスはさらに目の光を強めた。


「行くぞ、REN! ニュート!」


「「応っ!!!」」


 オレはソウともニュートとも戦った経験から、二人の攻撃の仕方がよくわかっていた。


 二人の合間を狙って攻撃を差し込んでいく。


 三人の波状攻撃は絶え間なく、アークネスをやがて防御一辺倒に押し込んでいった。


「行けるっ! 行けるぞっ!」


 ソウの声に弾みがつく。ここにきて、三人の攻撃に連携が生まれてきたのだ。


 少しづつだが、アークネスの鎧に傷を増やすことが出来ている。まだ、本体へのダメージはないかもしれない。だが、確実に鎧の再生速度を上回るペースで攻撃が通っていた。


「ぐぬぅぅぅぅっ!!! ちょこまかと動き回りおって!」


 アークネスは忌々しそうな声を上げる。それこそが我々の攻撃に苦戦している証拠だろう。


「一気に叩き込むぞっ!!!」


「ああっ!」「言われるまでもないっ!」


 三人の息がピッタリ合った連携が次々に決まっていく。そして少しずつだが、鎧につけた傷を広げていき、今では左肩や、胸の部分のプレートに大穴を開けていた。


「くっ! 貴様ら〜〜〜〜〜っ、いつまでも調子の乗りおって!」


 アークネスを中心に大きな魔法陣が描かれる。


「いかん、距離を取れ!」


 ソウの合図と共に、その場を離れた。


 放たれたのはアークネスを中心とした爆発魔法。


 辺りの地面を大きく抉る魔法だ。


 三人共うまく距離をとって躱すことができた。


 だが、アークネスは嗤っていた。


「フンッ!!!」


 気合いと共に奴は胸と腕に目いっぱいの力を込めた。すると、奴の着ていた鎧がはじけ飛んだのだ。


 今、アークネスはボロボロになっていた鎧を全て脱ぎ捨てたのだ。


「我の本気、とくと見るがいい!!!」


 アークネスの姿が消えた。


「早いっ!」


 ニュートは一瞬でアークネスの姿を見失ったようで左右を確認した。だが、その時点でもう対応が遅かった。


 強烈な一撃がニュートの横から薙ぎ払われ、体ごと宙に吹き飛ばされる。


「「ニュートっ!」」


 オレとソウが同時に叫ぶ。


 鎧を脱ぎ捨てたアークネスのスピードはオレの目を持ってしても視認し得なかった。


 その事実にオレの肌が泡立つ。


「次は貴様だっ!!!」


 アークネスはオレに狙いを定めたように睨み、そして、その姿を消した。


「RENっ!!! 危ないっ!」


 オレの体はソウによって突き飛ばされた。


「ソウっ!!!」


 体を飛ばされながらソウを見た時には、すぐそばにまでアークネスが剣を突き出していた。


 強力かつ、俊敏なアークネスの突きがソウの体を貫く。


「グフッッッ!!!!!」


 ソウは口から大量に吐血しながら地に落ちた。腹には大きな穴が空いており、ソウは瞬く間に呼吸すら絶え絶えとなった。


「ソウーーーーーーッッッ!!!」


 オレはすぐに駆け寄った。


 まさか、ソウがここまでやられるとは想像すらしていなかった。


 鎧を脱いだアークネスののスピードは、オレの想像を遥かに上回っていたのだ。


「RENっ! 急いでそいつの手当をっ! アークネスはオレが引き受けるっ!」


 ニュートが空を飛びながら、アークネスを急襲し、そのまままた浮かび上がっていく。


 オレは急いでソウを生き返らせるためにリザレクションを唱えた。


「ソウ……、生き返ってくれッッッ!!!」


 だが、RENが魔法を使っている間、アークネスと戦えるのはニュートただ一人。


「RENッ! 急いでくれッ!」


 ニュートは必死に空を飛び、アークネスの剣を躱し続けている。


「この蚊トンボめッ! すぐに落としてくれるッ!」


 アークネスの剣は容赦なく振られていく。その衝撃波を躱すだけで、もはやニュートに攻撃をしかける暇などなかった。


「グッ!!! RENッ!!!」


 ニュートの体が剣の風圧に巻き込まれた。そして、百メル以上離れた山にまで飛ばされ、激突する。


「次は貴様で終わりだッッッ!!!!!」


 アークネスがオレに向かって突進してくる。


「は、早くッ! 生き返ってくれ!!! ソウッ!」


「RENッッッ!!! ここはまかせてっ!!!」


 遠くから聞こえる声。それはイヴリスだった。


 その両隣にはズールとミリィの姿もある。三人は手を組み、魔力をお互いに融通させ、イヴリスに集中していた。


 そのイヴリスの頭上に現れたのは太陽。それも試合で見せたものよりも大きな太陽がアークネスに向かって動き出した。


「このデカブツめっ! これでもくらええええええっっっ!!!!!」


「イヴリスよっ! 我が魔力全てお主に託す!」


「…………仕方ないから私も協力してあげるわ」


 三人の魔力を吸収したイヴリスの太陽はより大きさを増し、1回戦で見せた時の倍以上の大きさにまでなっている。


「フンッ!!!!! 小癪なりっ!!!!! 我が怒りの剣を喰らうがいい!!!!!」


 アークネスはイヴリスの太陽と真っ向から勝負を仕掛けた。


 手に持った剣に魔力を込め、上段から振り下ろす。


 そして、巨大な太陽とアークネスの剣が激突した。


 吹き荒れる爆風。ほとばしる稲妻。溶けるように消えていく大地。


 その全てがインパクトの強さを物語っている。


 アークネスを包み込むように爆発の光が辺り一帯を覆い尽くした。




「ハァッハァッ、……こ、これでどう? もう私も動くことも出来ないわ」


 片膝を地について肩で息をするイヴリスの隣には、座り込むズールとミリィの姿があった。


 だが、爆発の煙が晴れた時、イヴリス達三人の目が驚愕に見開いた。


「フハハハハハハハハハッッッ!!!!! 今の一撃で動けなくなったか! ならばっ! すぐに止めを刺してやろうッッッ!!!」


 アークネスは健在であった。その剣にわずかなヒビやカケが見られるが、本人は全くの無傷だったのだ。


「クッ! 悔しいけど……ここまでのようね」


 うなだれるイヴリス。


「小娘よ。お主は諦めるのが早すぎる。だから試合に勝てんのだ」


 イヴリスの背後からかかる声。


「誰? こんなところに来るなんて……。お、お前はっ!!!」


 振り向いたイヴリスは驚きの声を上げる。


 そこに現れたのはジーク。その後ろにはトーナメントに参加していたキュイジーヌ、マリーン、バッジ、そして、驚いたことにグリーナの姿までもが並んでいた。


「だが、お主の魔法は悪くない。そのまま使わせてもらおう!」


 ジークは両手を空に掲げた。


 そこに現れたのは巨大な隕石。その隕石の内側からマグマが吹き出し始めた。そのマグマは隕石の表面を覆い尽くし、まるで先程の太陽のような見た目に変化した。


「よし、皆のもの。頼む!」


 ジークの掛け声に皆が一斉に魔力をジークへと集め始めた。


「ぬぅぅぅっ!!! これほどとはな……、これであの邪神を消滅させてくれるわッ!!!」


 ジークは両手をアークネスに向かって振り下ろす。


 巨大な隕石はまるで太陽のように真っ赤に燃え上がり、そして、皆の魔力の供給を経て、イヴリス達が放ったフォーリングサンのさらに倍以上の大きさにまで成長していた。


「うぬうぅッッッ!!! どこまでも邪魔ばかりしおって、この蚊トンボめらが!!!」


 アークネスは、両手の剣をクロスさせ、落ちてくる隕石に真正面から斬りかかる。


 先の衝突よりもさらに大きな衝撃が辺りを覆い尽くす。


 すでに森は焼け落ち、山は削れ、大地は荒れ尽くした。


 だが…………、それでも爆心地に立ち続ける者がいた。


「ぐぬ!!! これほどの魔法に耐え抜くとは!!!」


 ジークは叫んだ。


 アークネスは顔を笑みに歪めた。


「クックック……、今の魔法は効いたぞ。貴様……部下に欲しいくらいの腕前だ。まさか我が剣をボロボロにするとはな……、だが……我に歯向かった者には死あるのみ! 消えてもらうっ!!!」


 アークネスはヒビにまみれた剣を二本とも捨て去った。そして再び、アークネスは動き出す。完全に丸腰となった今も戦意が衰えてはいなかった。それどころか、より早いスピードでの移動となっていた。


「死ねいッッッ!!!」


 アークネスがジーク達を目掛けてパンチを放っていく。数百メルの距離があっという間になくなる。


「RENよ……、時間は稼いだぞ」


 ジークの口角が上がった。


「「待たせたなっ!!!」」


 RENとソウがアークネスを両側から挟み込むように刀で斬りつけた。


 アークネスは剣を失っており、鎧も纏っていない。二人の攻撃はクリーンヒットし、アークネスを大きく吹き飛ばした。


「REN!」


「ソウ!」


 オレはソウに決意の視線を送る。ソウも決心した目を返してくれた。


「オレを忘れてもらっちゃ困るぜ?」


 肩で息をしながらも駆けつけたのはニュートだった。


「大丈夫だったか!」


「当たり前だ! 奴をブチ殺すまで死ねるか! それよりも早く準備しろ! 三人のフルパワーを合わせなければ、奴を倒すことは出来まい」


「あぁ!」


「REN! 行くぞ!」


 オレは刀を上空に構えた。雲ひとつなかった青空が一瞬にして暗くなる。そして稲妻が縦横に走り始めた。


 ソウは両手にホーリーソードを出し、上方で二本のソードを一つに合わせた。その神聖な光は融合し、遥か上空にまで伸びていく。


 ニュートは全ての魔力を口元に集結させた。ドス黒いオーラにその体が包まれる。


 アークネスがゆらりと立ち上がる。


「今だッッッ!!!」


 三人の攻撃が始まる。


 オレの刀へ大量の稲妻が落ち、そして、巨大な稲妻の剣が出来上がった。その剣を上段から一気に叩きつける。


 ソウのホーリーソードは魔力を帯びるごとに巨大化していき、今や上が見えないほどに伸びていた。その超巨大な聖なる剣を振り下ろす。


 ニュートは大きく口を開いた。さらに口の周りに魔法陣を展開し、風魔法によるブレスの強化を入れた。そして、今、最強のブレスが吐き出された。


 三つの攻撃は途中で一つに混じり合い、稲妻の剣と神聖なる剣、毒と呪いのブレスが一つの太いビームのようになり、アークネスの体を覆い尽くす。


「がはッッッ!!! な、なぜだっ? 我が、負けるだと……」


 三人の最強の攻撃はアークネスの体を完全に無に返すのだった。




   ***




「これで貴様には恩を返したぞ……」


「あぁ、助かったよ」


 フンッと鼻息を荒くしてニュートは帰っていった。


「またな……」


 オレは正直に驚いた。ニュートからそんな言葉が出るとは思っていなかったのだ。


「いい仲間が出来たな」


 隣で笑顔になっているのはソウだ。


「でもどうしてこのトーナメントに来たんだ? それも途中から……」


「うむ、以前にイクスっていう邪神を倒したんだが……、それで悪神達の権威が弱まりすぎたようでね。奴らが何かをしかけてくる、という情報があったんだ。それで駆けつけたんだが、トーナメントの開始には間に合わなくてね」


「なるほど……。助けた皆はどうするんだ?」


「あぁ、こんなに強い者たちだ。残らずアルティメットハンターズに加入してもらう!」


 ソウは拳を高々と上げた。


「そっか。勧誘のために皆を死なないようにしていたって所か」


「あぁ、こんな馬鹿らしい戦いで死ぬことなんてないだろう?」


 ソウはニカッと笑みを浮かべた。


「ふぅ、それじゃオレもそろそろ行くか……」


「ん? オレと一緒に来ないのか? お前の強さはもう……」


「会っておきたい人がいるんだ。その後に合流するよ」


 オレにはどうしても会いたい人たちがいる。獣人の国へ行かねばならない。


「そうか……、友の帰還を待っている!」


 オレはソウの言葉に胸を熱くしながら、この場を立ち去る。


 オレの歩く先にはイヴリスとズール、ミリィが待っていた。


「もちろん、私はついていくわよ? 嫌だって言っても追いかけてあげるんだから!」


「むろん、我もだ。よもや置いていくまいな?」


「…………私を救ったのはアナタ。責任はとってもらう」


 三人の言葉にフッと笑いがこみ上げる。


「あぁ、行こう! まだまだオレ達の知らない世界、冒険が待っている!」




 完

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レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記) 荻野 @oginoxxx

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