第214話 悪の巨神 アークネス

 黒い巨大な影は今、完全な人形ひとがたを形成した。


「我はアークネス。この世の悪を司る神なり!!! 我に歯向かう虫けらどもよ! 神の力、思い知れっ!!!」


 怒りの籠もった言葉と同時に振り下ろされる巨大な剣。


「マズイっ! 躱せっ!!!」


 ソウの言葉に3人は散開した。


 そして、誰もいない広場に落ちたその剣は地震を起こし、空気の衝撃波で木々を薙ぎ倒し、地面に巨大な穴を残す。


 躱しはしたが、そのあまりの威力に体が震える。


「なんてヤツだ……。地形が変わっちまった! こんなヤツに勝てるのか?」


 オレの中に疑問が浮かび上がる。


 だが、この戦いを仕掛けたのはソウなのだ。ソウにはこの世界で洗脳されたオレを救ってくれた恩人だ。そのソウが戦っているのであれば、それはオレの戦いでもある。


 アークネスがニュートを攻撃するべく、剣を振り下ろした。ニュートは空を舞い上がるように飛び、その攻撃を回避した。そして、振り下ろされた腕に果敢に攻撃をしかけたのだ。


 オレも同時にアークネスの足へ攻撃を仕掛けていく。


 だが……


 カキィィィィィン!!!!!


 鳴るのは金属同士がぶつかり合う甲高い音。オレの刀は奴の鎧に食い込むものの、それ以上進むことは出来なかった。


「なんて硬さだ!!!」


 オレが毒づくと同時に、腕のほうからも金属同士がぶつかる音が鳴る。


「ちっ! オレの刃が届かんだとっ!!!」


 ニュートもアークネスの鎧の硬さに舌打ちをする。


「三人で囲んで同時に仕掛けるぞっ!!!」


 ソウの言葉に従い、三方から攻撃を開始する。


 前方は翼もあり空を飛べるニュートが引きつけてくれた。


 オレとソウはアークネスの後方から攻撃を重ねていく。が…………


 オレはジャンプしてアークネスの胴を横に一閃する。


 ギンッッッッ!!!!


 だが、一見細くなっている胴すらも斬りつけることは出来ない。


 ソウは足元を狙って剣を振り下ろす。その攻撃を躱すこともなく、アークネスは受けとめた。


(ソウの剣でも効かないだと? どうなってやがる!)


 アークネスは攻撃されたことにもまるで気にせず、ニュートめがけて剣を振り回す。


「ソウ! 一体どうなってんだ? この鎧は……」


「恐らく魔力によって硬度を高めているんだ。それに見ろ。さっき鎧につけたはずの傷すら消えていく。あの鎧には強い再生能力まで備わっている!」


(なんてこった! ただでさえ、攻撃が通らないのに、再生能力まで備えているだと? 一体どうすれば……)


 その時、アークネスがニュートではない他の者に狙いを定め、剣を振った。


「うわああああああっっっ!!! ローファンさん! 助けてっ!!!」


「リサ! 早く逃げましょう!!!」


 リサをおいてすたこら走っていくローファン。リサは逃げようとするものの、足を木の根に捕られてしまい転んでしまう。


 そこに振り下ろされるアークネスの一撃。


「うおおおおおおおっっっ!!!!!!」


 オレは無我夢中だった。転んだリサをすばやく拾い上げ、その体を遠くへ投げた。


 後はローファンがなんとかするだろう。だが、オレの目の前にはアークネスの凶刃が迫っていた。


(くっ!!! これまでか……)


 目前にまで迫った剣を防ぐことも出来ず、オレの腹を一瞬で両断し、アークネスの剣は地をえぐった。


「があああああああっ!!!!」


 凄まじい苦しみと痛みが押し寄せ、さらに呼吸まで出来ない。


 視界も真っ暗になり、オレは悟った。


(これが……死……)


 意識が薄れゆく。


(せっかくソウに呼ばれて恩が返せると思ったんだけどな……。ここまでか……)


 オレの最後の意識が途絶えようとしたその寸前、体を包み込む温かな光があった。


「RENッッッ!!! お前はまだ死ぬには早い!!! 戻って来い!!!」


 ソウの力強い声が耳に入る。


「RENよっ! 勝ち逃げなど許さん! オレが貴様を倒すその日まで死ぬことなど絶対に許さんぞっ!!!」


 ニュートの叫び声に怒りが混じり、オレを鼓舞する。


 そして、オレの体は光に包み込まれ、じんわりと温かな真綿にくるまれたような気持ちよさに包まれた。


 切断されたはずのオレの下半身が同じ光の中、融合してくる。


(そうか……これがソウのリザレクション)


 オレの口からはフッと笑い声が漏れた。


(ソウには助けられっぱなしだな……、だが、今回はオレが彼を助ける番だったはず。ならば起き上がらねば……)


 離れたはずの足が地についた。しっかりと地面を踏みしめる感覚が戻ってくる。


 やがて光が収まってくると、オレの体はすっかり元通りになっていた。


 オレは周りを見渡した。解説者の二人は遠くまで避難できたようだ。


 ソウとニュートはオレからアークネスを引き離すべく、少し離れた所で今も戦闘していた。


「待たせたな! 二人共! 行くぞっ! 三人の力を合わせ、アークネスを倒すんだっ!!!」


 オレの体に力と魔力が戻ってきた。


 体調はウソのように万全となっていた。


 オレはリズから譲り受けた刀を握りしめ、アークネスとの戦いに再び身を投じるのであった。

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