第213話 決勝戦 決着

 オレの右腕には確かな手応えが残っていた。


 振り向くと、ニュートは攻撃したときのまま、全く微動だにしていなかった。


 奴は顔だけをこちらに向ける。


「RENといったな…………、見事……」


 ニュートの腹が斜めにズレた。


 そして、上半身だけが少しずつズレていく。


 吹きあがる血。


 やがて、奴の上半身は地に落ちた。


(ここまで真っ二つになれば再生も無理だろう……)


 オレは自分の体から、黒い呪いが消えていくのを感じた。


(ニュートが死んだことにより呪いが消えたのか……。これでザッツも大丈夫だろう……)


 オレはニュートの死体をジッと見つめる。


(この男も必死に戦ったのだ。部族の神であるヒュドラをルシフェルに殺され、天使と神に復讐するべく……必死に……)

 胸に去来するやりきれない思いが残った。


「あああああっっっ~~~~~~~~っ!!!!! ニュートが、戦闘不能です!!!!! ゆ、優勝は、獣人族代表ッ! RENッッッ!!!!!!」


 会場に湧き上がる歓声。誰もが興奮し、そして、オレに祝福を与えている。


 解説者達が舞台に上がってくる。恐らくインタビューか何かするつもりなのだろう。だが、オレの体はニュートの方へ向かって歩いていた。


 会場中が驚き、オレに注目が集まる。


 オレはそんな会場の動向など無視したまま、ニュートに向かって神聖魔法を使用した。


 完全に死んでしまっている者にはヒールが効かない。使用した魔法はもちろんリザレクションである。


 真っ二つに切れていたニュートの体が光に包まれた。


 そして、みるみるうちに光が融合し、一つの体になる。


「ぐぬ…………、っ! こ、これはっ!?」


 ニュートはすぐに目を覚ました。


「これはリザレクション。死人を蘇らせる神聖魔法の奥義だ」


 オレの言葉にニュートは目を見開いた。そして会場の様子を見回した。


「……そうか。オレは負けたのか……」


 ニュートが起き上がる。


「なぜ……? なぜオレを蘇らせた? オレはお前を殺そうとしたんだぞ?」


 ニュートは低い真剣な声でオレに問いかける。


「ニュート……、お前はこんな所で死ぬには惜しい。そう思っただけさ」


 ニュートはゆっくりと下を向いた。


「………………」


 ニュートにかける言葉が見当たらない。そう思っていた時、異変は起きた。


 舞台のど真ん中、そこに突如として黒い霧が現れたのだ。


「こ……これはいったい?」


 観客が慌てて逃げ出していく。舞台にいた解説者達とオレ、ニュートは逃げる間もなく、その黒い霧の広がりに巻き込まれてしまった。


「ど、どうなってやがる!!!」

「こ、これはどうなっているんでしょうかーーーーーッ!」

「どうやら転移するときに現れる霧のようですが、どこに繋がっているのか全くわかりませんね!」


 慌てるニュートや解説者達を飲み込み、黒い霧は広がった。



   ***



 一瞬の浮遊感覚が途絶えると、オレの足は地上に降り立った。


「こ、ここは……?」


「来たか!」


 大声で叫んできたのは黒騎士だった。


「黒騎士??? ここはどこだ?」


「説明は後だッ! 今はあのデカブツを迎え撃たねばならん!!!」


 黒騎士の剣が指し示す方向には巨大な黒いオーラを身にまとった物体がいた。


 その黒い物体は少しずつ形を成していく。体には黒い鎧、西洋風のフルプレートメイルのような形状に変わっていく。頭部も全て覆い尽くすタイプの兜が現れ、目の箇所だけが一文字に空いており、そこから赤い光が二つ光る。


 そして、手に握られるのは巨大な剣。それも、左右二本。


 ただでさえ、身長は10メルを超える巨体なのに、剣はそれぞれが10メル以上の長さなのだ。


「こいつは……邪神……なのか?」


 圧倒的な密度の魔力は視界を歪め、体からは黒い影がオーラのように揺らめき立っている。


 その異様な風貌からオレが想像出来るのは邪神くらいのもの。それもかなり上位の神でなければ、これほど濃密な魔力を蓄えることも出来ないだろう。


「あぁ。コイツはあの馬鹿げたトーナメントの賞品さ! 多くの強者の魂を集め、神々はこんなヤツを蘇らせようとしていたんだ!」


 黒騎士は腕を震わせ、忌々しそうに言った。


「この化け物が賞品だと??? こいつが願いを叶えるとでもいうのか?」


 ニュートが黒騎士に迫る。


「あのな、奴らが本当に願いを聞き入れるとでも思っていたのか? このトーナメントを企画したのは札付きの悪神。奴らの勢力争い利用されたんだよ。アンタたちはな」


 黒騎士の言葉はニュートを驚かせた。


「なんだと? しかし、一回戦でRENに負けたお前が、なぜそんなことを知っている? いや、その佇まい……、貴様、黒騎士ではないな?」


「あぁ、俺は黒騎士ではない」


 黒騎士がその兜を取り外した。同時に顔を覆っていたマスクも取り払われる。


 そのマスクの下に現れた顔は……


「ソウっっっ!!!!!」


 オレは思わず叫んでしまった。オレの親友にして、最大のライバル。ソウの姿がそこにあったのだ。


「今まで隠していてすまん。色々話をしたいこともあるだろうが、まずはアイツを倒してからだ。すまんが手伝ってもらうぞ?」


「あぁ!」


「RENの知り合いか……。しかも……相当な実力者だな。まぁいい。RENよ。この命、助けてもらった礼を返すぞ。オレも参戦させてもらおう!」


 三人は頷きあった。


 そして、今、悪神たちの魂が形を成し、三人に襲いかかってくるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る