最終話 そして伝説へ……

 背後で魔王城が崩れ去る音がする。しかし勇者は振り帰ることはない。もう何度も見て来た光景だったからだ。ただし、城の中で自分も巻き込まれながらだったけど。


 暖かい陽の光が大地を優しく照らし、目の前には平和な世界が広がっている……はずだった。


「ここは……」


 空には真っ黒い雲と鳴り止まない稲光。空気は重く、雰囲気も暗い。ごつごつした岩山と草一つ生えていない大地。そう、ここは魔界なのである。そして、少し距離を置いた先には待ち構える無数の魔物たち。


 そうだ――勇者は魔王城にたどり着くまでのことを思い出した。


 姫様の力で魔界への扉を開けてもらい、途中魔界で暮らす人間たちの村ラストダンジョンの前の村を経由して、魔王城へ来たのだった。


 ということは当然、帰りも同じ道をなぞる必要があるのだ。「はっ、ここなら瞬間移動呪文ルラーが使える!」一瞬勇者は喜んだが、MPが0なのを思い出した。

 なんと……ここから魔界を脱出するまでまたいけないのか。


「魔王さまの仇! お前ら、なんとしてでも勇者をここで仕留めるぞ!」

「ウオオオオオ!」


「勇者を倒して、俺様が新しい魔王になるんだ!」

「ウオオオオ! 俺もやってやるぜ!」


 魔物たちは大きな声を上げて士気を高め、勇者を威嚇する。そして、怒涛の勢いで無数の魔物が襲いかかってきた。


「くっ!」

 勇者は改めてステータスを確認する。


 勇者

 LV:88

 HP:28/862

 MP:0/250

(以下略)


 敵の数は……多すぎてわからん!

 しかし見たところ全員一度は戦ったことのある魔物たち。倒せなくはない。もしかしたら、倒した敵がアイテムを落とすかもしれない。たしか世界樹の雫HP回復アイテム魔法の聖水MP回復アイテムを落とすやつもいたはずだ。それも見落とさないようにしよう。


「うおおおおお!」


 俺の戦いはこれからだ!

 勇者は右手に持つ王者の剣をしっかりと握りしめて、走り出した。


<完>

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十分後、魔王城は崩壊する まめいえ @mameie_clock

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