人は、人の現実に重きを置く。だから人の意識の中で、自分の見ている現実の中で、彼らが生き残ることは難しい。現実の外、現実に存在しないものは殺されるべきなんだろうか。ただの適者生存であっても、世界は彩りを失っていくようだ。現実が広がっていく中で、その他のものを夢想する余地を育んでいた何かをも、喪失しているのかもしれない。けれど人らしい残酷さと言っていいのか、失われる彼らはこの上なく美しいな、とも思ってしまった作品だった。
ファンタジーと純文学をうまい具合に融合させた作品、という印象がありました。読み方もそれぞれに限らず受け取り方はそれぞれという点も素敵です。死にゆく龍を助けることはできませんが、せめて他の生き物を少しだけでも助けられるよう、私も努めたいと思います…。
古の幻想が現代の文明によって塗り潰されていく、ても言われぬ物寂しさを感じさせられる。 死にゆく幻想の存在を記録として残そうとする主人公が、自分の行動そのものもまた実在する幻想をファンタジー(創作物)としてカテゴライズしているのでは……と葛藤するも、衝動を抑えられない様が印象的でした。
私達が何気なく溶け込んでいる都会の夏に、置き去りにされたような神秘的存在。メタ的要素が強く色々考えさせられるのですが、作者さんの描写が素晴らしく、日々着実に死んでいく幻想の、虫の息の音が聞こえてきます。
竜がそこら辺に居て電波のせいで死んでいく。突飛な世界設定ですが、現代社会に竜がいるという世界観が幻想的で良いと思いました。
はじめまして、こんにちは。私は文明大好きで電気なんてまだまだ足りてないと思っていて核融合炉が実現して無限のエネルギーを手に入れても、まださらにその先の人類の進歩に胸を高鳴らせる電気人間です。そんな私もこの作品は大好きです。もしかしたらあなたは電気人間の私のことがもう嫌いで敵対関係にあるかもしれない。だとしてもあなたを手放しで称賛します。私の心に龍の住処が出来ました。よい気持ちをありがとう。文学って素晴らしい。
幻想と現実と創作の均衡点に、この物語は浮かんでいるような気がします。人工物に囲まれて、見せかけの平和とかりそめの豊かさを享受しているそれでも、そこに生きているのはまぎれもなく、人間でそして命で……そして、生み出されているのは、この物語なのです罪か、責任が、業か………それとも、希望でしょうか
素晴らしい作品です。いろいろな楽しみかたができると思います。電波塔とは人類が作り出したもの、もしくは人類の活動そのもの。龍とはそれに犠牲となるもの。そう考えると、極めてSF色の濃い作品と言うこともできると思います。人類誕生から今に至るまで、その時代その時代でいろいろな龍が死んできたのでしょう。そして未来も、きっと人類が滅ぶまで「今日も電波塔で龍が死んでいる」が続いていくのだろうなと思うと、不思議な思いに包まれます。
この物語を一言で言うなら、『儚げ』です。表現、文体、比喩。それらが、上手く使われており、感嘆しました。美しく、綺麗で物語に引き込む技量は、やはり作者様の感性が豊かだからこそだと思います。タイトルの『龍』という単語も興味をそそられました。短編で気軽に読めるので、是非読んでみて下さい!
書き出し…タイトルから小説が歌っているようです。キラーチューンの書き出し。動きのある変奏。素晴らしい。
本作は、夢の世界を歩いているかのような短編小説です。科学の発展と共に朽ちてゆく幻想が、時代の坩堝に押し殺されてゆく夢の悲鳴が聞こえるようです。今日も電波塔で龍が死んでいる。読み終えた時、あなたはその亡骸を悼むでしょう。自然と共存していた神代を夢想する一作。オススメです★
文明が進み街が広がることで失われゆく自然風景や見えざるものたちを、叙情的に描いた短編です。 きっと昔はたくさん存在したであろう、神秘や幻想のいきものたち。 文明が進むにつれて居場所を奪われたかれらの在り方と、かれらに心を寄せる主人公の想いが印象的です。 哀しく切ない現状を歌いあげつつも、不思議に静謐な余韻が残る物語。2500字ほどですぐ読めますので、ぜひご一読ください。
運命の激流に生じた一滴の飛沫と悟り只在るがまま、神々は人の業に殺される
理の異なる存在を見る主人公……というと、ホラーの文脈に近しいと思われる。 他者には見えないおぞましい存在(幽霊など)を見て、激しい情動が沸き起こる。そういった点では本作も同じだが、その情動は恐怖ではない。 新たな切り口で味わう幻想譚は、思い出などで情動をかき立てる夏の夜にぴったりな雰囲気をまとっている。 その雰囲気をなんと見るか……それは読み手それぞれなのだろう。