工学畑の大学生が昭和初期のエンジニアに憑依するというところからはじまる作品だが、読み進めるとすぐそんな設定は頭の中から消えてしまう。
待ち受けるのは恐ろしいほど緻密に語られる発動機開発の工学的裏話。話が進むにつれて未来知識の割合は増してくるが、それでも情報の密度は変わらない。適度に読み飛ばすでもしないと工学の授業を受けている気分だ。しかし、それを踏まえた先にある「激闘編」は、まさに痛快で理想的な、しかし現実的で硬派な架空戦記である。
無礼を憚らず既存作品で例えるなら、『覇者の戦塵』シリーズの技術史シミュレーション的側面を大幅に深掘りしたもの、というべきだろう。重厚な背景情報に裏打ちされた実験・戦闘描写は実に圧巻。技術説明部分を読むのは大変だがしかし、がんばって読めば楽しさが数倍増すこと請け合いである。
もっとも日本の工業力については史実よりもかなり高く設定されている節はあるが、綿密に設定した技術力を遺憾なく発揮するためと考えればそのあたりは目を瞑るべきだろう。蒼穹の裏方のさらに裏方では、軍需生産を滞りなきものにするために生産改善に尽力する人がいる…など妄想するのも面白い。というかそんなことを気にする暇がないくらい情報量が膨大だ。作者はいったい何者なのだろうか。
無料で読むには勿体無い(尤も商業だとここまで工学的な小説は却下されるだろうけど)、何年かかってもいいから完結を願いたい、というかむしろ長く楽しみたいから更新は遅めでもいい、と思ってしまうレベルの傑作。ぜひご覧あれ
何故、飛行機は空を飛べるのか。
何故、戦闘機は空で敵と戦えるのか――?
そう聞かれれば
「えっ? 戦闘機なんだから、空を飛んで戦うのは当然でしょ?」
と感じてしまうかもしれません。
しかし、その「当然」を支えるモノがあります。
【蒼穹の裏方】というタイトルの通り、上記のような「当たり前」を裏から支えるモノにスポットを当てたのが本作です。
強い戦闘機って、何が強いの?
エンジン馬力って、どのくらいあると凄いの?
ジェットエンジンってどうやって作られるの?
飛行機にも積める、軽くて強い機関砲ってどんなの?
重たい爆弾を積むためにどうするの?
読み進めれば「そういうコトか!」と気が付くと同時に、これを作り出すために人が積み上げてきた技術、努力、情熱を目の当たりにできると思います。
軍用機――戦闘機、雷撃機、爆撃機、偵察機が空を飛び、戦う。
それを技術で支える「裏方」を是非、ご覧下さい。
そして、後半から【激闘編】として開発記ではなく、航空機を中心とした戦闘が始まります。仔細に描かれる航空機と、これらが活躍する戦局、両方をご堪能下さい。
昔流行った大戦略ゲームの様に、
かなり読み手を選ぶ作品だと思います。
しかも主人公は司令官ではなく『技術屋』、
戦略に口はあまり出さず、技術的な分野で未来を変えるべく動いていきます。
そういった内容なので開発パートを楽しめる下地が読み手にあるか?
史実の零戦に搭載された中島の星型空冷エンジン(発動機)から始まり、空冷と液冷エンジンの機械的な理由による機体形状の違いや、各種機体や機器を作中の説明から漠然とでも思い浮かべられるか?。
可能ならば実際にあった欠点や問題点なんかも知ってると直良し!。
といった深〜いコアな知識が要求される作品です。
当然、知ってると無茶苦茶面白いですね。
そして、開発パートの次は開戦後の実行(戦闘)フェーズ。
歴史に詳しく無いと開発パートとの時系列を確認しづらいといった問題点はありますが、1番盛り上がるパートです。
今後、史実の司令官達が主人公の知識を基に技術革新された軍隊をどう運用していくのか楽しみですね。
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完結!、連載有難うございました。
そしてお疲れ様でした。