第6話 親父にもぶたれたことないのに
オレは試着室のカーテンを開けた。
視界に映るは大きなお山。
なんとそこには下着姿の美香がいた。
確かにこれは危険だ!
このままでは死人が出るぞ!救急車!救急車を!
「朝日!下!下見て!奴が出たの」
「は?」
試着室の下を見ると
「何とかして!朝日!」
「追い払えば良いの?」
「そう!早く!」
美香に急かされ、ゴキブリを追い払えそうな物を探す。
部屋の隅に立て掛けられている靴べらを発見した。
オレはゴキブリを追い払うため、靴べらで奴のお尻をつついた。
「キャー!」
すると何故かゴキブリは美香の方目掛けて高速で移動する。
そんなゴキブリから逃げるようにオレの腕を握りしめ、背中に隠れる美香。
腕にはなんだか柔らかい感触が当たっている。
「クソっ!」
ゴキブリナイス!
「も~最悪」
美香は心底嫌そうな表情だった。
オレはもう一度ゴキブリをつつく。
「あ、また美香の方に...」
「ひゃん!もう!朝日しっかりして!」
「クッ!何で出ていかないんだ!」
良いぞ!もっとやれ!
「それ!」
「キャッ!」
「ほれ!」
「イヤ!」
「せい!」
「も~!なんでこっちに来るのよ~!」
オレとゴキブリ君との戦いは白熱を極めていた。
ゴキブリが美香の方に移動する度に背中や腕で柔らかい感触を堪能することが出来た。
ゴキブリ君とは何だか友達になれそうだ。
きっと話の分かるスケベな奴だろう。
そんなオレとは裏腹に美香は半べそをかいている。
やっぱり友達はなしだ!お前にはここで消えて貰う!
「これで終わりだー!」
オレは力強く靴べらでゴキブリをはらった。
すると、ゴキブリは羽を広げいきなり飛び上がった。
「うおっ!?」
オレは驚いて体勢を崩す。
「朝日!?」
そんなオレを支えようとする美香。
しかし、足が絡まり、二人一緒に倒れ混んでしまった。
「痛てて、美香大丈夫か?」
「うん、朝日が下敷きになってくれたから。あっ...」
目を開けるとすぐ目の前に美香の顔があった。
二人の視線が交差する。
「朝日...」
彼女の潤んだ瞳がこちらを見つめている。
心臓がバクバクと脈打ち、美香に聞こえてしまいそうだ。
体は熱を帯び、室内だと言うのに酷く熱い。
少しでも動けばキスをしてしまいそうな距離だった。
「美香...」
オレは動かなかった。いや動けなかった。
美香に押し倒されるような体勢なのだ。
二人で見つめ合い硬直した状態。
この永遠にも感じられる時間の中で彼女の顔を見る。
潤んだ瞳。ピクつく眉。そして怒りを堪える表情。
あれ?
「朝日手...」
オレは自分の手を見た。
十数年と見慣れた自分の手。
その手は大きく実った果実を掴んでいる。
試しに揉んでみると手いっぱいに柔らかさが広がった。
「手、どけてくれる?」
「あっ、ハイ」
静かに手をひくオレ。あっヤバい。めっちゃ怒っている!このままではマズイ!軌道修正を行わなければ!
「美香!ゴ、ゴキブリは出てったぞ」
「そうね」
「よ、良かったなぁ」
「そうね、ありがと。でも私の胸触ったわよね?」
「嫌!これは不可抗力で!倒れ混んだから仕方がなかったんだ!」
「そうね。でもすぐ手をどけなかったよね?」
「いやいや!気づかなかったんだって!」
「でも、気づいてから揉んだよね?」
「......」
「何か言い残すことはある?」
「やさしくお願いします」
「無理ね。朝日のドスケベ変態野郎ー!!」
「やさしくって言ったのにーー!!」
バチーンという音が試着室に響き渡る。
オレは投げ捨てられるかのように試着室を追い出された。
痛む頬を両手で擦る。
ひどい。ひどいじゃないか。
助けてと言うから助けに来たのに、この仕打ちはあんまりだ。
オレは誠心誠意を持ってゴキブリを追い払おうとしていた。
そこに下心なんてちょっとしかなかったはずだ!
本当なんだ!信じてくれよ!
頬を抑え謝罪の言葉を考えているオレの前を、嘲笑うかのようにゴキブリが通過して行ったのだった。
見えてますよ小倉さん 岡田リメイ @Aczel
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