君と描く未来

@syuki0000

第1話

筆に絵の具を付けて、思いのままに描く。そんな絵が好きだった。自分を表現できる気がした。絵に嘘はつけない。そこには夢が、未来がある。 

今日もまた、一人絵を描く。そんな時だった。僕に希望を与えてくれた人、中山美穂が入院した。病名は分からないが、心臓の病気らしい。先天性の病気で、突発的に発作が起きるらしい。今回の入院も珍しいことではなく、僕も何回か経験してきた。お見舞いに行こうと思ったが、いつも断られていた。ただ今回は、美穂の方からお見舞いの許可が出た。どういう風の吹き回しだろうか。

[どう、体調は?]

[あまりよろしくないかな。今回はいつものよりきつい]

[なるほど。で、心細くて僕を呼んだと]

[冗談は顔だけにするのよ]

[今関係なだろ]

[嘘嘘。創太はかっこいいよ]

[...]

[何照れてるのよ]

[別に照れてねぇよ]

[嘘だ]

[嘘じゃない]

きついと言いつつ彼女の顔には笑みがあった。

[最近はどう?絵の方は?]

[順調だよ。今描いてるのは...。まぁ後のお楽しみ。完成したら見せるよ]

[...]

[美穂?]

[ううん、何でもない。楽しみだな、創太の絵]

[ああ、楽しみにしておいてよ]

[本当、最初の頃の創太の絵は酷かったなー]

[いつの話してるんだよ。僕も成長するさ]

[でも昔から創太の絵は何というか、情熱というか温かさというか、愛があるよ]

[結局どれなんだよ]

[分かんない。でも本当の最初よりはマシだよ]

[本当の最初?]

[忘れたの?ほら、私と創太が会った場所]

[放課後の美術室?]

[覚えてんじゃん。それで私がなんて言ったか覚えてる?]

[...君目が死んでる。なんか描いてみて。って言われながら紙渡された]

[失礼極まりないね。でもその時は小説の影響を受けてたからさ]

[小説?]

[言ったことなかったっけ?生きる希望を無くした青年に一人の女の子が声を描けるの。『絵を描いてみない?』って。それを機に二人は世界に評価されるような絵を共に描いていくって話]

[美穂には僕が生きる希望が無いように見えたと]

[そこまでは思ってないけど、目が死んでいたのは本当だったよ]

[別に辛いこととかなかったけどな]

[人間って知らず知らずのうちにストレスを溜め込むの。創太はそれが過剰だったんじゃない?今も少し名残あるけど]

[確かにうんざりすることは多い]

この会話からわかると思うが、僕が絵を描き始めたのは美穂がきっかけだ。そのときの僕は楽しみなんかなくって死なないために生きてるって感じだったと思う。でも美穂が絵という希望をくれて、僕は世界に光りを見い出させた。今まで見てこなかった、ていうより見向きもしなかったし見れなかったなにかが見えてきた。それが何かなんて言葉では表せないし、僕も完全に理解はできていない。自己表現の為のものかもしれないし、風景画の一部かもしれない。

[ねぇ創太]

美穂の纏ってるオーラが変わった気がした。どこか寂しくって、泣きそうな...そんな表情をしている。

[なに?]

[もし私が今遠い場所には行っても、絵は描き続けてくれる?]

.........

[...当たり前さ。それとそんなこと言うな。死ぬような病気ではないんだろ]

[それが聞けて良かったよ。でもね、創太には一つ言わなきゃいけないことがあるの]

.........

[私はもう、長くないの]

差し込む光が、遮断された。

[確定したことは言えないけど。持ってあと半年。でも明日からは家族以外とは会えなくなるの。だから今日、創太をここに呼んだ]

[そんな。嘘だ]

僕は泣きそうに、いや泣いていたと思う。美穂も涙を浮かべていた。

[ごめん。嘘じゃないの。でももう、創太は一人で大丈夫。創太には未来も希望もある]

[違う!僕は美穂と一緒に未来を描きたいんだ。君が教えてくれた絵で、希望を描きたいんだ。あの時、君は気まぐれだっただろうけど、空っぽの僕にいろんなものをくれたんだ。なのに、どうして...]

我ながら情けないと思う。美穂はきっと、一人で歩いて行く僕を期待してるはずなのに。

[嬉しいこと言ってくれるね。私はただ、手段を提示しただけ。そっからは全部創太の力だよ]

ここからはもう声も出なかった。涙を流し合う僕らはいつのまにか寄り添っていた。最後まで僕は美穂に手を引っ張られていた。いつかは僕がこの手を引いて、どこまでも連れたいってあげたかった。ありがとう美穂、希望みたいなあなたを、絶対に僕は忘れない。


1カ月後中山美穂は予定よりもずっと早くこの世を立ち去った

僕は美術室にいた。

[もうすぐ完成だ]

もういない美穂の。憧れで、希望で、大好きだった彼女の絵を、僕は描き続けていた。

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