第57話 見上げる
「先輩、いつも思うんですけど。このビルに何か用でもあるんですか?」
「いや別に。何で?」
「何で、って。いつもしばらく見上げてるじゃないですか。店とか入ってなさそうすけど」
先輩は会社の外に出る度、近くの特定のビルをしばらくじっと見上げる。声を掛けてようやく我に返るのだ。
「そんな見てるか?でも何か、気付くと見上げちゃうんだよなあ」
「通行の邪魔になりますよ。戻りましょう」
「おう」
あのビルから飛び降りたらしい女が、今なお飛び降り続けていること、それが先輩の足元に叩きつけられていること、先輩は見えていないながらずっとそれを目で追っていること。何から話すべきか話すべきでないか。それよりどうやって、先輩を近付けさせないようにするか。先輩は回を増す毎に落下地点に近付いている。さすがに、両者衝突させるのは避けたい。見たくない、そんなもの。俺のなけなしの良心が、溜息をついた。
短夜怪談 宵待昴 @subaru59
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