第56話 雨の日の帰り道


雨の降る深夜。

帰宅中、道を急ぎ足で歩いていると、後ろからびちゃびちゃと足音がする。わざと水溜まりに足を入れて音を立てているような、不快な足音。深夜だし気持ち悪いので、先に行ってもらおうと思った。少しずつ私は歩調を緩め、背後の足音は変わらぬペースで私を追い越した。どんな人か見てやろうと、顔を上げる。白いレインコートに、透明なビニール傘を差した人。男か女か分からない。その人がバシャバシャと急に小走りになったと思うと、ほんの数メートル先でフッと消えた。開いたままのビニール傘が、地面を転がる。びしょ濡れになる傘を、どれくらい見ていたか。

「うわっ」

無意識に出た自分の声で怖さがこみ上げ、全速力で駅に引き返した。翌日以降は見なかったが、雨の日はまた見てしまうのではないかと思うと、今から梅雨時期が憂鬱だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る