第55話 赤い紫陽花
幼少の頃、私が住んでいた母の実家には、庭に紫陽花があった。青い紫陽花で、私はその紫陽花を見るのが好きだった。ある年、青い紫陽花の花々の中に、染めたように真っ赤な紫陽花を一つ見つけた。
「おばあちゃん、あの真っ赤な紫陽花なあに?」
聞いてその紫陽花を一目見た祖母は、血相を変えてあちこちに電話をし始める。
「あれが咲いた。しばらく無かったから……そう……くれぐれも気をつけて……」
どの相手にも、こんなことを言っていたように思う。その年、親戚の一人が若くして亡くなった。突然死だったらしい。それから、家を引っ越すまで何回か、真っ赤な一つの紫陽花を見た。そして必ずその年に、親戚の誰かが亡くなったのだ。
「やっぱり、お父さんがもう居ないから……」
お父さん、というのは祖父のことだ。祖父は、私が最初に赤い紫陽花を見つけた、その前の年に亡くなっている。祖母が一度だけそう呟いたのが、やけに印象に残った。
その後、私が成人した年に祖母の家は全焼した。祖母は焼死し、庭も燃え、あの紫陽花も全て焼失したのだ。
「我が家から犠牲は出ないけど、終わりにしないとね」
と最後に会った祖母が寂しそうに言った意味は、今も分からないままでいる。あれから、赤い紫陽花を見ることは無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます