第12話 うまくいかない
中庭へ辿り着く迄の間、幸い僕たちは誰にも見つかることなく無事に到着することが出来た。
途中でシェリルの屋敷で飼っている番犬に吠えられそうになった。けれども、ポケットに1個だけバスケットから抜き取って忍ばせて置いたマカロンを番犬の前に餌として投げて事なきを得た場面もあった。
うん。
本当に偶然、たまたまマカロンを投げつけて良かった。
1人納得して中庭を歩いていると、不意にトニーが話しかけて来た。
「ところでローレンス様」
「何だ?」
「先ほど、犬にマカロンを与えていましたね」
「仕方ないだろう?別に与えていたわけじゃないよ。ああでもしなければ僕達2人、あの番犬に吠えられていたから、やむを得ずだ」
幾ら鎖に繋がれているとはいえ、大人の身体並みに大きい番犬に吠えられようものなら恐怖でしかない。
「よろしかったのでしょうか?」
「何がだよ?」
「犬に人間のお菓子を与えたことがです」
「駄目なのかっ?!」
思わず声が大きくなってしまった。
「ええ……何かの本で読んだことがあるのですが、あまり良くないと書かれていた気がします。消化不良を引き起こしたり…最悪の場合……」
ま、まさか……?
「死んでしまうのかっ?!」
だとしたら大変だっ!番犬を恐れるあまりにマカロンを与えてしまった!
もし……あの犬がマカロンのせいで死んでしまったりしたら……!
だ、駄目だ。
恐ろしくて脳が考えることを拒否している。
しかし、トニーの答えは……。
「いえ?肥満の原因になるかもしれない……ということしか分かりません」
「え……?」
肥満……肥満……肥満だって…っ?!
「ト……トニィ〜〜ッ!!」
「な、何ですかっ?!そ、そんな恨めしい目で……何故私を睨みつけるんですか?!」
「うるさいっ!お前のせいで僕の寿命が10年は縮まったじゃないかっ!」
「そ、そんな!私が何をしたっていうんですかぁっ?!」
その時――。
ガサッ!!
中庭の茂みで何かが動く音が聞こえた。
マズイ!僕達の侵入が屋敷の者達にばれてしまうっ!
「トニーッ!!静かにしろっ!」
「もがっ!」
僕はトニーの口を左手で押さえ、右腕で羽交い締めにすると反対側の茂みへ連れ込んだ。
「モガ…」
「しっ!」
口を押さえられたトニーが恨めしそうに僕を見た矢先……。
「ニャア〜ン」
猫が茂みから飛び出して、何処かへ逃げていってしまった。
「な、何だ……猫か……驚かせて…」
ほっとしてトニーから腕を外した。
「ローレンス様、いきなり首を締めることはないじゃありませんか!危うく息が詰まるところでしたよ!」
トニーは余程苦しかったのか、首元に手を当てて訴えてきた。
「あ……悪かったな。使用人か誰かかと思ったんだよ」
「まぁ……確かに今のは私も少し驚きましたから…。それではシェリル様のお部屋の様子を伺ってみましょう」
「うん、そうだな」
そして僕達は改めて、茂みから出てくるとシェリルの部屋を目指した。
**
「よし、うまい具合にレースのカーテンが少し開いているぞ」
シェリルの窓からは少しだけ中の様子が覗けるようになっていた。
「う〜ん……それにしても盗み見しているようで、少し罪悪感を感じますね……」
「は?何言ってるんだ?トニー。元々は中庭から侵入しようと言い出したのはお前じゃないか?それを今更何を……」
すると僕の話を最後まで聞く気もないトニーが首を傾げた。
「……どうやら部屋は留守のようですね。シェリル様はいらっしゃいませんよ?このお屋敷にはいないかもしれませんね」
「何だって?」
どうやらまたしても僕達は空振りしたようだ――。
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