第2話 理不尽な内容
「ど、どうされたのですか?ローレンス様。突然大声を出されて?」
トニーが尋ねてくるが、今はそれどころではない。
最初に飛び込んできた一文で一瞬思考が止まってしまったからだ。
そこで改めて手紙に素早く目を通し始めた。
**
『拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした。
早いもので貴方と許婚同士になって、15年という歳月が過ぎました。
けれど、この15年という歳月の中、私と貴方の仲は縮まるどころか広がっていくばかりです。
以前は喧嘩もしたことがありますが、今はそれすら無くなりました。まるで私達の関係は倦怠期を迎えた夫婦のようです。
いえ、倦怠期を迎えた夫婦と言う言葉は不向きですね。
何しろ私達は仲が良かったことも夫婦にすらなったことは無いのですから。
私が歩み寄ろうとしても、ローレンス様は一向に相手にはしてくださいませんでしたね。
それどころか、貴方は私という許婚がありながら不特定多数の女性たちと親しくされているのを私が知らないとでもお思いですか?
でも貴方が不特定多数の女性と親しくするのも無理ない話かもしれません。
何しろ私達は親同士が勝手に決めた許婚同士なのですから。
ですので、この関係をもう終わらせることに致しましょう。
私の方から婚約破棄をさせて頂きます。
何故なら私は貴方のことが大嫌いだからです。
ローレンス様のご両親には私の方からいずれ改めて婚約破棄のご挨拶に伺わせて頂きます。
それではローレンス様。ごきげんよう
かしこ 』
**
「な、な、なんっなんだ……!この手紙は……っ!」
手紙を持つ手が怒りの為か、はたまた驚きの為か震えてしまう。
確かに女子学生たちと親しかったかもしれないが、あくまで彼女たちは大学の親しい友人でしかない。
しかも他の男子学生たちも一緒に行動しているのに?!
大体月に2度しかない顔合わせの日に、いつもいつ愛犬を連れてきて僕そっちのけで楽しんでいるくせに…。
何故、こんな上から目線で僕だけが責められなければならないんだ?
これではあまりに理不尽だ。
女性の方から婚約破棄を告げられるなど……こんな不本意な状況を受け入れられるはずないじゃないか。
「ふ、ふざけるなーっ!」
思わず手紙を破りそうになり……思いとどまった。
そうだ、このあまりにも強引な手紙はいずれ何かに利用出来るかもしれないので今は破くのはやめておこう。
まずはシェリル本人に会って、話し合いをするのが先だ。
なんとしても彼女からの一方的な婚約破棄など認めさせない。
僕にも男としての意地があるのだから。
まずは興奮を鎮める為に深呼吸することにした。
「す~…は~…」
「ローレンス様…?大丈夫ですか?それで‥‥シェリル様はお手紙で何と伝えてこられたのでしょうか?」
トニーは好奇心いっぱいの目で僕をじっと見つめて来る。
「……出かけるぞ。トニー」
手紙を畳み、封筒に入れると懐にしまった。
「え?出掛けるとは‥‥?どちらへ?」
眼を瞬くトニー。
「決まっているだろう?!我が許婚のシェリルに会いにだ!今すぐ馬車の用意をするのだっ!」
身振り手振りでトニーに指示する。
「は、はいっ!!」
トニーはただ事ではない僕の様子に相当驚いたのか、脱兎の如く駆け出した。
「フハハハ‥‥いいだろう、シェリル。婚約破棄…受けてやろうじゃないか。ただし、言い渡すのは僕の方からだっ!そしてシェリルよっ!自分から婚約破棄を言い出したことを後悔させてやるっ!」
待ってろよ……シェリル。
今、会いに行ってやるからな。
僕は空に向かって高笑いを続けた――。
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