第14話 僕と許婚
「シェリルッ!!」
名前を呼ばれてシェリルはハッとした様子で顔を上げた。
「ロ、ローレンス様っ!何故ここにっ?!」
途端にシェリルが驚きの表情を浮かべる。
「シェリル……良かった、ここにいたのか。まさかこんなところで会えるとは思わなかったよ。隣、座っていいよね」
「え?あ、あの!」
返事を聞く前に隣に腰かけると、あからさまに迷惑そうな様子でシェリルは僕から視線をそらせてしまった。
「良かった……。シェリル。ようやく君に会えたよ」
出来るだけ優しい声でシェリルに語りかけてみる。
「一体、何をされにここへ来たのですか?私、お手紙に書きましたよね?ローレンス様のことが大嫌いなので、私から婚約破棄させて下さいと」
「あ、ああ。確かにそうだったよね、それはよく分かっているんだけどさ……」
大嫌いという言葉に軽く傷つきながら曖昧に返事をする。
「とにかくもう、お引取り下さい。婚約破棄の件は両親が戻ってから相談して改めてローレンス様のご両親にお伝え致しますから」
その言葉に驚いた。
「え?シェリル…ま、まさか君が婚約破棄を決めたことを御両親は知らないのか?!」
「ええ、そうです。両親が家を留守にしてから決めたことですから」
「ど、どうしてっ?!」
その時、僕はあることに気付いた。
「あれ?そう言えば、いつも連れているペットはどうしたの?」
いつでもどんな時でもシェリルは愛犬を連れていたのに、今は一緒にいない。
「サファイアのことを言っているのですか?彼は最近よく寝ることが多いので、今は私の部屋のソファの上で眠っています」
「え……?彼……?そうか、あの犬はオスだったのか」
小さい子犬だったから、何となくメス犬のような気がしていた。
すると、シェリルは何故か僕を冷たい目で見つめてきた。
「な、何?」
「オスとう言い方はやめて頂けますか?」
「ええ?だったらなんて言えばいいんだ?」
「オスではなく、男の子です」
そしてフイッとそっぽを向くシェリル。
一瞬、その様子に厶ッとしたけれどもすぐに考え直した。
そうだ……。
ひょっとするとシェリルはもうこの先長くないかもしれないんだ。僕は事実かどうか、確認する為にここへ来ていたんだ。
「そ、それで……最近の調子はどうなんだい?」
まずは何も知らないふりをして、さり気なく尋ねてみよう。
「…良くはありません」
「何だって?!」
体調……良くないのかっ?!
ポツリと返事をするシェリルの態度に、狼狽てしまった。
「よ、良くはないって……そ、それって本当の話しなのか?」
すると、シェリルはジッと僕を見つめてきた。
「……もしかして、心配してくれているのですか?」
「当然じゃないかっ!シェリルが僕のことをどう思っていようが、これでもまだ僕は君の許婚のつもりでいるんだから!」
つい、言葉に力がこもってしまう。
するとシェリルの目が見開かれた。
「ローレンス様…まさか本気で心配してくれているのですか?他の人たちは、みんな私に『大丈夫、何も心配する必要はないから』と言って、誰も本当のことを教えてはくれないのに?」
「僕はシェリルの言葉を信じるよ」
この屋敷で、暮らす人々が皆病人に本当のことを告げるはずない。
それだけシェリルを大切に思っているのだから。
「そ、そうですか……心配してくださって、ありがとうございます……」
シェリルの目に涙が浮かぶ。
「シェリル……」
その涙を見て、確信した。
やはり、シェリルはもう長くはないのだと――。
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