第19話 デートの終わりに

 その後はシェリルと一緒に公園近くのレストランに入って昼食を食べたり、食後は本屋や雑貨屋などの店を見て回った。

それはデートとはとても言える代物では無かったけれども、シェリルは楽しそうな笑顔を見せてくれた――。




****



 2人で手を繋いで町を歩いていると、空はいつのまにかオレンジ色に染まっていた。


そのことに気づいて、慌てて懐中時計で時刻を確認すると18時を回っているじゃないか。


「シェリル、大丈夫かい?疲れたりしていないか?」


一緒に過ごす時間が楽しかったあまりに、シェリルの体調や時間を気にかけるのをうっかり忘れていたなんて……しくじってしまった。


「はい、大丈夫ですよ?」


笑顔で返事をするシェリル。


「そうか……それなら良かったけど……でも、ごめん!」


シェリルに頭を下げた。


「え?突然謝るなんて……一体どうしたのですか?」


「うん、僕はシェリルと一緒にいるのがあまりに楽しくて、体調を気にかけてあげるのをすっかり忘れていたからだよ」


シェリルはもう……長くは生きられないから体調だって良くないはずなのに……。


「お気遣いありがとうございます。でも本当に体調なら大丈夫ですよ?ひょっとしてローレンス様と御一緒させて頂いているので、今は元気でいられているのかもしれません」


シェリルの頬は夕日に照らされて赤くなっていた。


何ていじらしい事を言ってくれるのだろう。

繋いでいた手に力を込めると声を掛けた。


「シェリル、でもそろそろ帰ろうか?屋敷の人たちが心配しているかもしれないし」


「…そうですね……。サファイアのことも気がかりですし」


「サファイア?ああ、シェリルの飼い犬だったね」


突然シェリルがペットのことを口にした。


「はい、ここ最近眠ってばかりいるので少し心配なんです。今も眠っているのかしら?」


内心犬に負けたような気持ちになって面白くは無かったけれども、シェリルの気持ちを一番最優先にしなければ。


「それは確かに気になるね。それじゃ、そろそろ帰ろう」


「はい」


そして僕達は辻馬車乗り場へ向かった――。




****


 

 シェリルの屋敷に戻った頃には、空には1番星が浮かんでいた。



「まぁ!シェリル様!今迄何処に行ってらしたのかと思えば、まさかローレンス様と御一緒だったのですかっ?!」


シェリルを出迎えたメイド長が大げさに驚く。


「ええ、そうよ。とても楽しい1日を過ごすことが出来たわ。そうですよね?」


シェリルが僕を見た。


「うん、本当に楽しかったね」


そして僕はこれみよがしにシェリルの肩を抱いて自分の方へ引き寄せた。


「ま、まぁ……本当に楽しかったのであれば、私は何も言うことはありませんが……それよりも奥様と旦那様がお帰りになっています!有能なお医者様を連れて帰ってきて下さったのですよ?」


無神経なメイド長はシェリルの前で、堂々と医者の話を口にした――。

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