第18話 僕の願い
「シェリル、次は何処へ行きたい?」
僕達は手を繋いで公園内を散策していた。
「そうですね〜…あ!あれはっ!」
突然シェリルが大きな声を上げた。
「何?どうかした?」
「は、はい。あそこのジューススタンドが…そ、その美味しそうで…つい……」
シェリルの顔が真っ赤になっていく。
彼女の視線の先には大きな樹の下で搾りたてジュースを売っている屋台が待機していた。
「もしかして、喉が乾いていたのかい?」
「はい、そうなんです……」
「何だ、だったらもっと早く言えば良かったのに。よし、僕も丁度何か飲みたいと思っていたんだ。一緒に行こう」
「はい」
そして僕はシェリルの手を引いて、ジュースタンドの屋台へ向かった。
「いらっしゃいませ、何にいたしますか?」
屋台に到着帽子をかぶった若い男性がにこやかに声を掛けてきた。
「う〜ん……どれがいいかな……」
ジューススタンドのメニュー表を見ながら呟いていると、シェリルが声を掛けてきた。
「ローレンス様、私はオレンジ・ジュースがいいです」
「そうだな…うん、やっぱりいちばんシンプルなオレンジ・ジュースがいいかな?それでは2つ下さい」
「ありがとうございます」
男性店員はハンドジューサーでオレンジを絞ると紙コップに注いでいく。
「まぁ……美味しそうだわ……」
シェリル目をキラキラさせながらその様子を見つめている。
「うん、本当に美味しそうだね」
「はい、どうぞ」
店員が搾りたてのオレンジ・ジュースを差し出してきた。
「どうもありがとう。はい、シェリル」
ジュースを受け取るとすぐにシェリルに手渡した。
続いて僕の分のジュースを受け取ると、店員が笑顔で尋ねてきた。
「お2人は恋人同士ですか?」
「え?!こ、恋人同士だなんて……!」
真っ赤になるシェリルの代わりに頷いた。
「ええ。そうですよ」
「そうですか。お似合いのカップルですね」
「ありがとうございます。自分でもそう思っていますから」
それにしても言葉というものは不思議だ。
口に出せば、本当に僕たちは仲の良いカップルのように思えるのだから。
「ロ、ローレンス様っ!」
シェリルの顔は益々真っ赤になる。
こんなに色々な表情をするシェリルを見るの初めてかも知れない。
そう思うと、胸が再び痛んだ。
僕は今迄15年間も許婚だったのに……一体彼女の何を知っていたのだろう…と。
まさかシェリルの死が身近に迫っていることを知って、こんなにも切ない気持ちになってしまうとは……。
ベンチに座って笑みを浮かべながらオレンジ・ジュースを飲むシェリルの姿を見つめながら思った。
シェリルの命が消えてしまう、その日が来るまで沢山の笑顔が見たい……と――。
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