第5話 知られてしまった事実

 結局、花束作戦は不発に終わってしまった。


「くっそ……バラやカトレアなんて花は高いんだぞ?それなのに受け取るだけ受け取って追い返すなんて……」


部屋に戻り、ブツブツ文句を言いながら机にむかった。


よし、次の一手を考える為にもう一度シェリルからの手紙を読み返してみるか。


早速懐にしまっておいた封筒から手紙を取り出すと再度目を通した。


「……」


駄目だ‥‥分からない。

最初から最後まで読み返しても一向にシェリルが何を考えているのかが僕には理解することが出来なかった。


大体冒頭部分のこれは何だ?


『拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした』


「一体何なんだよ?何の前フリも無く、いきなりこんな手紙の書き方普通するか?さすがにこれは傷つくだろう?大嫌いでした、なんて書かれたら…。シェリーはどういうつもりで僕にこの手紙を書いたんだよ……」


ため息混じりに言葉が口をついて出てしまった。


「ローレンス様?」


「大体、大嫌いでしたとあるけれど……いつからシェリルは僕のことを嫌っていたんだ?少なくとも子供の頃は嫌われているとは感じなかったぞ……」


そうだ。少なくとも中等部位までの間は嫌われていると言うよりは、むしろ僕に好意を寄せているように感じたぞ?

何しろあの頃も月に2回の顔合わせの時はシェリルは決まって必ずベスを連れて来ていた。


けれども明らかにあの時のシェリルは僕のことを意識していた。

何故なら僕のことをチラチラ見ては視線が会う度に真っ赤になって俯いていたのだから。


「あの〜ローレンス様」


それじゃ、シェリルが変わってしまったきっかけは一体何だ?


「…そうだ、思い出したぞ」


きっかけは高等部に入学してからに違いない。

思えば、中等部時代の僕は背丈がシェリルとさほど違いは無かった。

いや、シェリルの方が若干背が高かったかもしれない。


けれど高等部に学年が上がってから、僕は急激に背が伸び……女の子たちにもモテ始めた。

中には僕にシェリルと言う許婚がいることを知らずに、ラブレターを渡してきた女子学生たちもいたっけ……。

勿論シェリルがいるのだから丁重に断ったのは言うまでも無い。

こう見えても一応僕は義理堅い人間なのだから。


「ローレンス様、聞こえていますか?」


「まぁ、僕に許婚がいることを知らない女の子達がいたのも無理はないか。何しろ僕とシェリルは2人で一緒に町へ出掛けたことも無いからな」


けれど…恐らくシェリルは知っていたのだろう。僕が女子学生たちからラブレターを貰っていたことを。

同じ学園に通っていたわけでもないのに……。


「だけど、何故今頃になって婚約破棄を告げる手紙を寄こしてきたんだ?もし僕の交友関係を問題視していたなら、もっと早くに告げて来るべきだろうし……」


その時――。


「な、何ですってっ?!ローレンス様っ!今の話…本当ですかっ?!」


突然背後でトニーの大きな声が聞こえ、心臓が口から飛び出しそうになった。


「うわぁああっ!!な、何だよっ!お、お前…いつの間に勝手に人の部屋に入ってきてるんだよっ!!驚きすぎて心臓が止まりそうになってしまったじゃないかっ!」


振り向きながら胸を押さえ、トニーを睨みつけた。


「先程からずっとお部屋におりましたよ?何度ノックをしても返事もなさらないので、失礼致しますと言って部屋に入らせて頂いたじゃありませんか。その後何度も何度もお声を掛けたのに一度もローレンス様は返事をしてくださらなかったではありませんか」


「な、何だって……?それじゃ僕の独り言を…き、聞いていたのかっ?!いつからこの部屋にいたんだよっ!」


「はい、『さすがにこれは傷つくだろう?』辺りからずっとおりましたけど?」


「な、何だって……?そ、それじゃ……初めから聞いていたってことじゃないかっ!」


「はぁ…まぁ、そうなるかもしれませんね……」


トニーは頭を掻きながら対して悪びれる様子もなく、頷いた。


そ、そんな……よりにもよってトニーにシェリルからの手紙の内容を知られてしまうなんて……!


「お、お前って奴はーっ!」


トニーを怒鳴りつけたのは言うまでも無かった――。

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