第16話 許婚の告白

「シェリル……何があったのか話してくれるよね?」


シェリルの小さな身体を抱きしめたまま尋ねると、コクリと小さく頷いた。


そこでシェリルの身体を離し、じっと見つめると躊躇いがちにポツリポツリと彼女は涙ながらに語りだした。


「は、話を偶然耳にしたのは1週間程前のことだったのです……。たまたま両親が話しているのを耳にしたのです……。お父様が言っていたんです。あんなに元気そうに見えるのに、もう長くは生きていられないなんて可愛そうだって。そしてお母様の方は、あの子になんて説明をしたら良いのって……泣いていたんです…。確かに10日程前に熱が出たのでお医者様に往診してもらいましたが、ただの風邪だって聞いていたのに……」


「シェリル……」


シェリルはグズグズ泣きながら話している。

僕はそんな彼女の肩を抱き寄せた。


「それで?続きを話してくれるかい?」


「はい。その後使用人の人たちも何故か私に気を使うようになってくれるようになったのです。それにメイドさん達の会話も聞こえてきました。可愛そうなお嬢様って…それであの話は聞き間違いじゃ無かったのだと分かって、両親に本当の事を話してと頼んだのです。私はもう長くは生きられないの?って。だけど……」


「だけど?」


「両親は顔を見合わせて……笑ったんです。いきなり何の話をしているんだって。少しも取り合ってくれなくて……」


そしてシェリルは項垂れた。


「そ、そんな……」


なんて事だ。

シェリルは自分の命がこの先短いことを知って、悲しんでいるのに笑って取り合わないなんて…。

仮にも自分の娘なのに、何て酷い人たちなんだ?


シェリルの両親に激しい怒りを覚えた。

これはもう一言……いや、二言文句を言うだけでは済まされない話だ。


「シェリル、御両親は何処へ行ったんだ?」


「それが…良く分からないのですけど、数日前に名医を見つけた父が母に話しているのを耳にしました」


「名医……」


それじゃシェリルの両親は彼女の病気を治す為に医者を探しに旅立ったのか。

途端に先程の自分の考えが恥ずかしくなった。


「だ、だから……私、もう先が長くないなら……ローレンス様と婚約破棄するべきだと思って…あ、あの手紙を……」


シェリル小さな手が震えている。


「シェリル、1つ聞くけど…本当に僕のことが大嫌い?」


「ま、まさか……!き、嫌いなはず無いじゃありませんか!私、ずっと子供の頃から…ローレンス様のことが……す、好き…でしたから……」


シェリルは涙を拭うと真っ赤になってうつむいた。


その姿はとても可愛らしく、庇護欲を掻き立てられる。


「ありがとう、シェリル。僕は君と婚約破棄はしないよ。最期までシェリルの側から離れないから」


そしてシェリルの両頬に触れると、自分の方を向かせた。


「ロ、ローレンスさ……」


シェリルの言葉が途中で途切れる。


何故なら僕がキスをして彼女の唇を塞いだからだ。



この日、ガゼボの中で僕とシェリルは初めてキスを交わした――。




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