主人公がかわいそうな系のざまぁ


 まず三話、読ませていただきました。
 長くはなりますがご了承ください。

 まず感想から述べさせていただくと、主人公がかわいそうな系のざまぁ、である。
 以降、私の感じた話になりますので、面倒であれば読み飛ばしてください。

  
 まず、タイトルで【勇者の友人】というものを入れている。これはこの物語において最も枢要的な部位のことであり、タイトルコールの最期で主人公自身が”友人”だとは思えないよ、という、アンチタイトルを入れているのがポイントである。読んでわかるがこの口調といい、主人公の憐憫さが際立ってならない。焦燥もしただろうし、苦々しい思いをしたのも確かだろう。かといってこの主人公、人を恨むということをしなかった。否、まったくもってまっさらに、怨恨を持たなかったかと聞かれれば首の振り様を一考付さねばならんだろうが、とかく根の易しい野郎で、捨て台詞の一つもはけないくらいの気の弱い主人公だった。所謂、さっくり恨みったらしいことを受けてその直後にフラストレーションを大爆発させる昨今のざまぁ系とは違い、弱火でじっくりことことと読者基い主人公の心を蝕み、事静かにその思念が爆発する作品のように見える。
 さて、火にくべられた鉄鍋の上で座するが如き、ひりつく恨み事を食らう準備はいいか。一話ごとの感想と行こう。



 第一話、クビになる

 題名が……端からクライマックス。
 第一声でエンドロール。
 物語はクビ宣告から始まる。机の荷物を片付けてとっととでてゆけぃ!
 さて、この話のこじれの発端は主人公の持つ【ギフト】にあるようである。成人を迎えたこの世界の住民は各々の能力を神様から下賜され、それによって生活の営みもしやすさも変わるようだ。特に戦闘技術の【ギフト】、あるいはポーターと呼ばれる荷物運びを主軸とする【ギフト】持ちは冒険者などに有能であるのだとか。問題は、主人公の【ギフト】がどれにも属さないということ。
 【勇者の友人】というギフトである。アニメモブキャラの扱いよほぼ。集合写真で端っこから二番目みたいな感じじゃん。

 さて、ここで気づいたが登場人物の名前はアレクサンダー、ルドルフ、フィリップ、アンナ、いずれも現実世界でも名前のあがる王族の名前である。アレクサンドロス大王はマケドニア国王、ルドルフはオーストリア皇太子、フィリップと聞けば英国の王族の一人、アンナはポーランドの女王、ともひとつロシア皇帝としてもアンナという人物がいたらしい。名前の由来はここだろうか。
 パーティメンバーは各々、先頭に特化した【ギフト】あるいは有能な能力を授かっていた。間違っても【勇者の取り巻き】【あそびにん】【ちち】というような並ふざけたものではない様子。これは確かに主人公イジメられてまう。

 うわあ、幼馴染ちゃん寝取られ済か。胸が痛い。秘かに主人公も懸想を寄せていたようだ。どこがいいんだいこんな男。人前で他者をけなすに躊躇いのない奴ぁクズだよクズ。本当にいい男というのは沸き上がる怒りを唇の端嚙みきるまで耐えに耐え、底腹を煮かし、眼孔から火花が飛ぶほど力を蓄えたうえで、殴らぬ選択をするやつのことを指す。主人公とかどうだろう。

 ここまでで気づいたのはどうにもアレクサンダーに【勇者】がついているわけではなく、幼馴染ちゃんについている点である。このいけ好かんガキが手ひどい目にあうわけではないという示唆か? タイトルをそのまま回収するとするならば幼馴染ちゃんが酷い目にあってしまうわけである。

 アンナは幼馴染だしこういった物語のいわば主人公の肩持ちポジに収まってくれるだろう、と私は期待していた。
 だもんで、ここ読んでて悲鳴が出た。
 違った。おもくそ相手側サイドだった。幼馴染という単語を利用した叙述トリックである。舌先にスズメバチを仕込んでいるのかと思われるほどに舌鋒鋭く主人公を刺す。剣突く物言いというレベルじゃない。返しのついた槍で以てつきとおし、内臓を返しでかき回すようなさまである。幼馴染っていったい……。
 
 何故だか主人公と同様レベルで心が傷ついたが先を読もう。


 第二話、僕のこれまで

 回想が差し込まれた。もとより、【ギフト】とは無力な人間を哀れんだ神様が贈り物として下賜し始めたのが事の発端だそう。
 結果として主人公は【勇者の友人】を賜った。茶目っ気差し込むな。こころないんか神様。
 ただこの賜った能力に周りの大人は浮足立ったそうな。友人が出たなら勇者も出るはずと。主人公の立ち位置がラストワン賞一個手前のG賞みたいな扱いである。

 この付近の話を見る限り、アンナももともとはああいった傍若無人なものではなかったらしい。昔のアンナは、瞳にまだ光が宿っていたらしく、主人公の手を引いて力を用いる旅に出る。熱に浮いた、といってよい。彼女は冷静に見えて、だがその身体は自らが選ばれた身分であることに対して沸々と沸きわがる体熱に浮かされてしまったのだろう。それでも、立った二人でその冷めやらぬ熱に浮かされて歩く旅路は、どれだけ主人公はうれしかったか。

 あの関係になったのは、その他仲間が付き、且つその仲間たちが勇者足るを頭角に現し始め、明確に、主人公との差が歴然としてきたあたりからである。
 旧仲間たちの気持ちもわかる。血涙をしたらせ、肢体の耐え抜けん暴力と免れぬ死との狭間、恐々とする前線を駆けねばならん仲間たちからすれば、ずっと後衛で荷物持ちをし、戦闘にも参加はできず、ただ見ているだけ。だが仲間である以上、戦利品を分け与えねばならない義理はある。だがそれらは、己どもが骨肉を競って魔物と争いぬいたうえでの戦利品である。強者の食い飽きた肉にかぶりつく、ハイエナとしか見れなくともおかしくはない。例え主人公が装備していたものが、戦力者と比べれば腐肉の汁にも見劣らん欠落品であったとしても、胸の内に秘する黒い歪みは嵩を増すばかりだろう。

 三話のステータスでその様子も明らかになる。明か、強者との戦闘に遭遇していたにかかわらずレベルは2と、露ほども戦闘に参加していないのが浮き彫りとなっていた。

 このあたりの罪悪感があるから主人公も強くは出れないのかもしれん。人の罪悪感を覚える大きな一つとして、己の力量不足を他人が被ることにある。彼が、もし自分がもう少し強ければ、と考えることは幾度となく在ったろう。【ギフト】という神からの無力な人間に対して与えられた施しは、小さな少年の、方寸を鎖でつなぐ結果となった。

 

 第三話、冒険者ギルド

 金はあるが食い扶持はない。食い扶持がなければ、金は減る。金がなくなりゃ崖っ淵。彼の生命線は両掌に収まる無機物に握られていた。握っていたのではなく、あくまで握られているわけである。
 
 さあここで行うはステータスオープン。この世界は己の力量を数値で見れることが出来るそうだ。筋力をもう17ほど延ばせば片手持ちでグレートソードが装備可能になりそうである。なに? ゲームが違う?
 王都の就職は縁故がものをいう、甚だ現状を表すにいい表現である。この王都とやらも結局は顔がものをいう。主人公はそこかしこで悪評ばかりが塗られている始末。真っ黒けな顔じゃ誰も雇っちゃくれない。世知辛いものである。

 ギルドに入ろうとしたかれが面を合わせたはあまり好印象を抱かせぬ大男。ガチポーターのデトレフである。ガチポーターの語感好きだな。
 デトレフ【重量軽減】というギフトを所持しているらしい。確かにガチポーターっぽい。ハベルの指輪みたいなんか。この様子だとガチポーターを勧誘している勇者パーティーに入ってしまう気してならない。

 愈々もって主人公は自棄に近い状態になる。ただならぬことがたて続けに起き、精神に支障をきたしたのだ。こうまで来ると可哀そうである。もっとパーティから外されたが故におチャラけて、その間に急仲間からの助け信号が来るものかと想像していたんだが、些か、この落とす描写がリアルで息をのむほどだった。特化う彼に、なにか幸があればよいのだが。


 統括したい

 正直、ざまぁ系というのはあまり好んで読んだためしがない。というのも、口は悪いがどうしても離脱の地点の話が、等閑《なおざり》となったり、深刻性がまるでない書き方をされていたりと、序盤から世界に入り込めないものが散見されたためだ。通常考えてみれば、パーティからのくび宣告とは相当なダメージを受けるとともに、冒険者としての生業が崩れるために人生が狂いかねん出来事のはずである。従って死に物狂いで次のやるべきことを探さねばならないのに、存外飄々とされると読み入ろうとした世界観に弾かれてしまう感じがしてならない。これは私の感想だから皆々当てはまるものではない。あくまで私がそうだというものである。

 が、この物語に関しては、可哀そうすぎるほどに主人公が繁栄されていた。この王都に入るまえの過去のこと、仲間たちとの出来事、それらすべてが合わさって、だが報われずに途方に暮れるかれの姿が、なんとも哀愁があり、見放せぬ思いがした物だ。
 晦渋極まった文句を並べたが、シンプルに『面白く』思えた。読み手からすれば、最も重要で枢要で、肝要な感想を統括の最期として置かせてもらう。


 さて、私の感想は、主人公がかわいそうな系のざまぁ、である。

 単純に可哀そうだった。多分村でてくまでは、彼彼女は関係が良好だった。ただ、受け取った力が、彼らの仲を引き裂いた。神とは、愚かな人間に対して啓示を下賜する場合もあれば、壁を設えて試練と称し、これを傍観する場合もある。この神様が行ったことは、あるいは試練であったかもしれない。
 だがしかし、それを乗り越えた先にあるのは、おそらくは仲直り、などというハートフルなものじゃない。無様な恰好をし、ただ助けを乞う彼女を、彼は切り捨てる義務がある。勿論、助けてやる権利もあるだろうが、如何なる選択肢をとろうと、もはや昔のようにはなるまい。過ぎたるは及ばざるがごとし。ヒビの生じたガラスは、二度と同じ模様を描けない。
 ただ、個人的に三話までの読了だったものだからフラストレーションがたまりっぱなしである。時間はかかるだろうけれども、追っていきたいものである。

 大変面白く読ませていただきました。 
 応援させていただきます。

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