スカーレットの物語

 一口に赤色といっても、かなり幅がある。スカーレットを和訳しようとしてもこれまた幅がある。
 深紅や緋色と訳されることもあるのだが、和名から想起すると少し暗い感じがする。
 正確には赤を少しオレンジ寄りにした色だ。黄味の強い朱色(バーミリオン)とも、鮮やかな赤(カーマイン)とも違う。
 日本人はあまり選ばないが、世界でいちばん売れている口紅のベスト3にこのスカーレット色が入るそうだ。
 赤系のポピーがそれだ。
 主張が強く、明るく、そして女性らしい魅力に満ちた色。


 スカーレットときくと真っ先にマーガレット・ミッチェル「風と共に去りぬ」のヒロイン、スカーレット・オハラが想い浮かぶのも、色のイメージに一役かっているかもしれない。
 どんな男でも落とせる美貌と頭の良さをもったスカーレットは目的に邁進していく女実業家の先達で、その名のとおり、燃えるような意志の強さと向上心を兼ね備えている。
 スカーレットとの対比として「風と共に去りぬ」にはメラニーというもう一人のヒロインが配置されていて、こちらは優しく慎ましく、家族と隣人を愛して自分は目立たず、発言は聡明で、まさに南部の理想的な女性として描かれている。
 スカーレットが緋色の薔薇なら、メラニーは白い雛菊。
 このメラニーの婦徳がどれほどすごいのかというと、すべての女を軽蔑してせせら嗤い、スカーレットですら掌で転がしてしまう男レット・バトラーが、メラニーだけには弱った姿をみせて頼みにし、偽りのない敬愛をささげるほどなのだ。

 スカーレット。「風と共に去りぬ」の影響もあってその名には、自立した強い女性のイメージが付きまとう。
 南北戦争で荒廃した郷里の土を飢えのあまりに口にした後、握りこぶしを天に突き上げスカーレットは神に挑む。

 人を殺しても二度と飢えません。

 しかし「風と共に去りぬ」で真に強いのはメラニーだ。
 メラニーは嫌われ者のスカーレットに対しても態度を変えず、北部兵士の遺体ですら丁寧に葬る。
 街の下品な娼婦たちですらメラニーを尊敬しており、聖母マリアにそうするかのように頭を下げる。
 スカーレットにとってメラニーは初恋の人アシュレイと結婚した恋敵であり、軽蔑すらしていた古臭い女なのだが、最後になって「わたしはメラニーを愛していた」と完敗を認める。
 このスカーレットとメラニーの対比のほうが印象強くて、メインであるスカーレットとレット・バトラーのことはあまり頭に残っていない。


 西部劇ときいて、まず思い浮かべるであろう乾ききった荒れ地。
 そこに一輪の、あかい花が咲いている。
 風に揺れ、太陽に照らされ、夜の冷気と砂塵を浴び、嵐の中でも根を張っている。
 朝がくると、あーよく寝たとばかりに眼をさます。
 その花は自分のことを「俺」と呼び、男言葉をつかう凄腕のバウンティハンター (賞金稼ぎ)のリタだ。リタは魔法で火竜を操りながらのびのびと女一匹で生きている。
 少し気になっている男もいる。
 でも仕事が第一さ。
 そこに妖術遣いの妙ちきりんな女シオンとの出会いがやってくる。姉さまのような妹のような、よく分からない女だ。
 賞金がかかったこの女を賞金稼ぎとしてリタは追うことになる。
 その賞金首シオンが気になることを云うのだ。

 自分の居場所があるって、かけがえのないことなのよ

 独立独歩のリタは今まで一度も真剣にそんなことは考えたことがない。この台詞は居場所がない者が云う台詞だからだ。
 でかい胸を持ち少し天然でうまい料理を作ってくれるシオンがそう云うということは、居場所がないのはシオンなのである。
 そしてリタは決意する。
 ま、そういうことがあってもいいじゃん。
 スカーレットとメラニーが凹凸だったように、この二人も直感的に互いを補いあう片割れだと分かったのだろう。
 長年の付き合いがあった酒場のメアリーではないところが縁の妙だ。

 炎の色とかたちをしたフレイムポピーが、リタの好きな花だ。
 荒野に咲いていたスカーレット色の一輪の花のリタ。リタは未練なくあっさりと生きてきた大地を棄てる。
 シオンがいる限り、これからの人生には何処に行ってもいつでも花が咲いているからだ。
 透き通るような色をして、生命の歓びにあかく耀いている。

 この作品は90分くらいのアニメで観たい。
 笑うリタと、リタにしがみ付くシオン。
 女二人と一匹を乗せて旅立つ気球。青空に流れる花々。
 ラストシーンは映像として美しいものになるだろうし、一度見たら忘れられないのではないだろうか。
 あまり知られていなくても、「このアニメ知ってる人いる?」といつまでも懐かしく想い出されるような、そんな作品になりそうな気がする。