5, 外接ハロ
それから少し間があって、エリカの口が開く。
「…この間受けた事務所のオーディションに合格したんだ」
「それって凄い有名なところのやつだったよな?」
「凄いじゃないか!」
「そうね」
本当に凄いことなのに、エリカはあまり嬉しそうに見えない。
でも、その理由はこの先に続くエリカの言葉が教えてくれた。
「だから、もうここには居られない」
「……あたしね、卒業したら東京に行くんだ」
途端に強い風が吹きつけた。
いつかはみんな大人になる、そうすれば必ず別れのときは来る。
それにエリカの女優になるという夢は、こんな小さな町にいるだけじゃ叶うことはないだろう。
そんなこと、頭では分かっていた。
それに、これはエリカにとって小さい頃からの夢に近づく嬉しいことで、それは幼馴染の僕にとっても嬉しいことのはずなのに。
僕は、自分の握りこぶしが嬉しさ以外の感情で震えていることに気付いた。
「なんでそんな大切なこと、最初に僕なんかに言うんだよ」
「違うよ、大切なことだから最初にコウタに言ったの」
「……今日で8年だね」
「コウタ覚えてる?今日あたしが強引に舞台を見に連れて行ったこと」
「あたしが女優になるって決めた日」
「忘れるわけないだろ」
「僕にとっても大切な日だから」
「そっか、覚えててくれたんだ」
「コウちゃんにとっても大切な日だったんだね……」
微笑んだエリカの姿は、いつもより一層大人びていて、すぐ目の前にいるはずなのに、とても遠くにいるみたいだ。
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