3, 放課後の特別な時間


普段学校でのエリカは「美人で清楚な近寄りがたい女性」というイメージで、全く隙がない人に見える。



だけど、放課後こうして2人で帰っているときは「近所のお姉ちゃん」な感じで、要するに僕が幼少期から知っているエリカに戻る。

だから、こうやって他愛もない会話をしていると、少しだけ得した気分になれるんだ。



エリカの家は僕の家のすぐ向かい側にあって、物心つく前から一緒に遊んでいた。


中学生のときには、彼女の背中を追って、必死に勉強して県内屈指の名門校である塩濱高校にも合格した。



多分、僕はエリカのことが小さい頃から好きなんだと思う。

だけど、この感情はエリカに対する「憧れ」であって「恋慕」ではないんだと、僕は自分に言い聞かせている。



「お腹すいたな~」

「ねえコウちゃん、いつものコンビニ寄ってこうよ」


「うん、いいよ」


学校から一番近いコンビニは、5分ほど歩くとあるんだが、どうやらエリカも僕と2人で居るのを塩濱校の生徒に見られるのは気まずいらしく、放課後に2人で行くときは、学校から20分くらい歩いたところにあるコンビニを使うようにしている。



かくいう僕も、遠い方のコンビニの方が好きだ。


なぜなら、学校から離れているから利用者は少ないし、晴れの日には店の前から連なる山々を見ることができる。



あと、エリカと少しでも長く一緒に居られるっていうのもあるけど、これは僕の心のどこかにしまっておく。



そんなわけで僕たちは、その "いつものコンビニ" に行くことにした。




ーーー僕は、いつも通りアイスカフェラテだけ買って、店の前でエリカの買い物が終わるのを待つ。



少し遅れて出てきたエリカは、ペットボトルのお茶とモナカのアイスを持っている。



「お待たせ~」

「このモナカアイス、新発売のダブルチョコ味なんだってー!」


「はい、これ一口あげる」



エリカはモナカアイスを一列分だけ割って、僕の方に差し出してきた。



「お、サンキュー」

「って、なんで取らせてくれないんだよ」



僕が手を伸ばすと、エリカはアイスを持っている手を引っ込めた。



「だって、これはあーんしてあげるって合図だから」


「いやいや、恥ずかしいから」


「そんなこと言わないの、誰かに見られてるわけじゃないんだし、ほら素直にあたしの手から食べなさい」



普段はここまでの絡みをしてこないんだが、今日はやけに絡んでくる。


どうやらエリカも引く気はないみたいで、このままだと埒があかないので仕方なくエリカの手にもったアイスを食べた。



「どう、美味しい?」


「ん?まあそれなりに」



いくら幼馴染とは言えど、こうやって女子の手からものを食べるのはなんだか照れくさい。


それに、エリカからなんかいい匂いするし。



「何よその感想~」

「それに最近コウちゃん全然あたしと絡んでくれないし」


「絡むって言ったって、もうそんな子供でもないし」


「そう?高校生なんてまだ子供でしょ?」

「コウタも知らないうちに冷めた大人みたいなこと言っちゃって〜」

「そんなこと言ってたって、学校の成績が悪いと大人にはなれないよ〜」


「僕の成績なんて、エリカ知らないだろ」


「ふふん、実はおばさんから聞いてるのよ、最近コウタの成績が良くないってね♪」


「くそー、母さん何言ってくれちゃってんだよ」


「あと、最近コウタが全然家に居ないとも言ってたわね、ちゃんと家帰ってるの?」


「最近結構バイト入ってるからな、遅くなってるけど家にはちゃんと帰ってるよ」


「そう。バイトもいいけど、たまにはお家の手伝いもしなさいね」


「はいはい」



エリカのお節介焼きは、まさに母さん2号とも呼べる存在で、高校生になった今でも、休日僕の家のインターホンを押して「お家の花壇に水やりしときなさい」と言うためだけに僕を呼び出したりする。



「ところで、コウタ何のバイトしてるの?」


「教えない。エリカ絶対笑うもん」


「え~、笑わないから教えてよ~」


「やだ、絶対やだ」


「もう、コウちゃんのいじわる」



こうして、他愛もない時間はあっという間に過ぎていく。



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